2008年10月21日(火) 21時53分
「日本が国際社会で名誉ある地位を」竹内行夫最高裁判事の会見詳報(産経新聞)
新しく最高裁判事に就任した元外務事務次官、竹内行夫氏の会見詳報は以下の通り。
−−本日任命されたことへの感想と抱負は
「最高裁の裁判官の地位と責任の重さを改めて強く感じている。裁判の世界は初めてで、経験のない世界。抱負はひとことで言えば全力を尽くすということに尽きる。私自身は若いころから、パブリックサービスにかかわる仕事をしたいという気持ちを持っていたが、司法の世界は初めてなので、気持ちを新たに取り組みたい」
「このように社会が多様化して、利害関係も複雑になっている状況で、基本的に大事なことは個人個人の尊厳と社会秩序を実現し、よい社会を作っていくこと。言葉を換えれば基本的人権の尊重と民主主義。それを念頭に、司法の世界でよい社会を作ることに、微力ながら尽力できれば幸い」
−−これまで外交官として活躍してきたなかで印象に残ることは。その経験を最高裁判事としてどう生かしていきたいか
「長い役人生活で外交に携わった。いろいろなポストに就いたが、それぞれでベストを尽くすというのが信条。特に、これ、というものを特記して掲げることは難しい。ときどきの関係した問題、案件はすべて印象に残っていて重要。東南アジア諸国と日本の関係、米国との同盟関係の推進、国際社会において名誉ある地位を占めるための外交活動などで思い出はある。国際貢献、たとえばカンボジアでの平和維持活動に参加したこともそのような案件だった」
「そういったバックグラウンドを持ってはいるが、裁判官として、それを強調しすぎるような気負った気持ちではない。個々の事件、事案に対応するにあたって、自然とそういった体験が反映されるということでよいのでは」
−−来年5月に始まる裁判員制度については
「制度として実施が決まっているので、それを円滑に実効的に実施していくというのが、裁判所側からみた課題。根本のところの議論はいろいろされているが、時代の流れと社会の変化を考える必要がある。国家を運営するにあたって、立法、司法、行政とあるが、国民ないし市民の国家運営への参加が大きな流れ。立法は選挙で選ばれ、行政でも、とみに市民・民間人の参画傾向が高まっている。多様化し、流動化した社会のなかで、市民社会の参画というのが司法分野でも求められているという、大きな流れがある。いろいろ調整すべきこともあるので、円滑に実施できるように努めていくことが重要」
−−趣味、座右の銘は
「趣味はあまり人に言うことが趣味に合わない。ただ、クラシックからポップスに至るまで、音楽は好き。スポーツはゴルフを少しやるが、むしろテレビ観戦。映画少年だったので、昔の映画、特に西部劇はよくみる。コレクションはいささか自慢ができるものを持っている。短歌、和歌も好きで、新聞の日曜版の投稿欄は目を通す。自分で作るときもあるが、自分で楽しむ程度」
「座右の銘は特にないが、ときに思い浮かべるのは『克己』という言葉。それから、『清流に石を投げれど水清し』という言葉を思い浮かべる。あと、中庸にある『居易』という言葉も頭をよぎることがあります。ただ、座右の銘というより、経験論的にその場その場で対応する方が性に合っている」
−−いつも全力を尽くすという信条とのことだが、常に心がけているようなことは
「自分で言うのも変だが、私はぶれないという評価を受けていた。問題に当たるにあたって、問題の本質は何か、案件の本質は何かということを見抜き、自分で決めると、考え方の座標軸がしっかりとしてくる。そして、いったん見抜いたら、あまりぶれない。基本的なことは問題の本質を見抜くこと。ただ、逆のこともいうと、『悪魔は細部に宿る』という言葉があるが、問題の本質が実は細かいところに潜んでいるということもある。大まかなところしかみていないと本当のことがない、『戦略は細部に宿る』と竹中平蔵さんが言っているが、大局的大局的といっているだけでは見えない。実は細かいところに戦略的で重要なところがある」
−−西部劇が好きとのことだが、コレクションはどれくらい
「西部劇は200から300本。ビデオからDVD、アメリカで買ったものもある。私と反対の内容だから西部劇が好きなのかもしれないが、ざっくばらんにいうと、話のテーマも、筋も展開も決まっている。主人公が問題に直面して逃げない。逃げる人がヒーローになることはあり得ない。白か黒かを明確にして責任を取るというのが大体のテーマ。単純明快で好き。そのあたりが、子供心に好きだった。とくに『赤い河』『リバティ・バランスを射った男』が好き」
−−外交の立場で日本の姿勢を見せる立場だったが、最高裁は日本の規範を作り、人権感覚も含め、それを諸外国に示すという意味合いもあるが
「まず、行政の分野に身を置いていた私が司法にということで、三権分立を意識して、頭の切り替えをしないといけない。外交に携わっていると、情報発信は極めて重要だったが、それを司法の世界において、どのようにやっていけばいいのかについては、未経験で知恵を持っていない。問題意識は共有しているが、どういう風に出していくのがいいのかは私にとっては研究課題。外交であろうが司法であろうが、日本が国際社会のなかで名誉ある地位を占めるというのは共通した目標。どういう方法論でどの情報発信していくのかは研究課題だ」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081021-00000599-san-soci