2008年10月17日(金) 13時16分
「寄付」は自分へのご褒美 広がる活動、変わる文化(産経新聞)
■匿名より実名 若い世代、自己表現の手段
1球投げるごとにワクチン10本−。福岡ソフトバンクホークスの和田毅投手(27)が投球数に応じて途上国の子供に感染症予防のワクチンを贈る「僕のルール」が大きな共感を呼び、全国に活動の輪が広がっている。自分の励みや楽しみとして実践する新しい寄付活動について、専門家は「寄付がおしゃれでカッコいい自己実現の手段に変わりつつある」と期待する。(中曽根聖子)
東京・銀座に本店を置く焼きドーナツの人気店「ミエル」。客が簡易包装を選んで1箱節約できるごとに、1本20円のポリオ(小児まひ)ワクチンを認定NPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」(JCV、東京)に寄付している。
活動は7月に始めたばかりだが、「すぐに捨てる箱で子供の命が救えるのなら」と簡易包装を希望する客は増え、すでに約1200本を寄贈。同社スーパーバイザーの津崎加奈絵さんは「ドーナツを通して子供たちに笑顔を贈れる、と店で働くスタッフの励みにもなっています。お客さまが簡易包装を選んでくださると店内が温かい空気に包まれる気がします」と話す。
ゼネコンの奥村組東北支店では、全長約2000メートルの新唐桑トンネル(宮城県気仙沼市)工事現場で働く有志が、1メートル掘るごとにワクチン2本を贈るルールを実践。山形県で働く調理師はハンバーグを1枚焼くごとに1本、埼玉県の男性はマージャンで1勝するごとに1本…などユニークな報告がJCVには続々と寄せられている。
「僕のルール」は和田投手が平成17年から始めた。「プロ野球選手になったら社会貢献がしたいと思い、投手としての結果がワクチンの数を増やす仕組みを考えた」と投球1球ごとに10本、1勝で同20本などのルールを決め、3年間で約15万本を贈った。活動はテレビCMで大きな反響を呼び、JCVには問い合わせが殺到。寄付件数はこの3年間で2倍に急増し、昨年は約4500件に達した。
ユニセフによると、ワクチンがないために予防可能な感染症で死亡する子供は1日4000人に上る。JCVはこうした命を救おうと14年前に発足した。「以前は理解していただけなかった。一人一人が自分の方法で取り組む『僕のルール』は、寄付文化が成熟していなかった日本にとって画期的なこと」と、細川護煕元首相の妻でJCV理事長の佳代子さん。この新しい寄付文化を広めたいと、募金にまつわる思い出などをテーマにエッセーを募集中だ(10月末締め切り)。
総務省によると、日本の1世帯当たりの平均寄付額は年間約2600円。米国では約16万円と、60倍以上の開きがある。だが、NPO法人「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」(東京)事務局長の松原明さんは「横並び傾向が強く匿名で行うのが美徳とされていた日本人の寄付意識はここ2、3年で急速に変わりつつある」と指摘する。
そのきっかけとなったのが、津波で大きな被害を出したスマトラ島沖地震(16年)で、ハリウッド俳優やサッカー選手ら世界中の著名人が堂々と多額の寄付を表明したことだ。また有名ブランドのチャリティー商品や寄付つき商品が次々と登場し、関心が高まっていることも背景にある。
松原さんは「特に若い世代にとって寄付はおしゃれでカッコいい行為、頑張った自分へのご褒美に、スマートに自己実現をする手段として注目を集めている」と説明。「井戸作りやワクチンなど効果や使い道が明確な活動に資金が集まる傾向にある」と話している。
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