「有罪の可能性を悟ったのか」「抗議の自殺だ」−。ロサンゼルス銃撃事件で米当局に逮捕された三浦和義元社長(61)の自殺が報じられた十一日夜、当時の捜査関係者や知人、支援者らは一様に「なぜだ」と驚きの声を上げた。日本での無罪確定を覆すロス市警の「新証拠」とは何だったのか。元社長の死で解き明かされる機会は永久になくなった。昭和の事件史を彩った渦中の人物は、新たな疑惑に自ら終止符を打った。
三浦元社長自殺の一報に、ロス疑惑当時、警視庁捜査一課長として捜査を指揮した坂口勉さん(73)は「ただただ、びっくりした。まさか自殺するなんて予想していなかった。これで事件の真相解明ができないのは非常に残念だけど、もうどうしようもないこと」と衝撃を隠せない様子で語った。
当時を知る捜査関係者は、驚きながらも「日本では無罪になったが、司法制度が違う米国には『共謀罪』があり、厳しいことが分かったのでは」と分析する。
一方、三浦元社長と交流のあった人たちは、自殺を許した米当局やロサンゼルスへの移送そのものに怒りの声を上げる。
十一日夕、三浦元社長の妻から電話で知らせを受けた「人権と報道・連絡会」の山際永三事務局長(76)は「ロスに移送されてからよほどひどい仕打ちを受けたのではないか。もし本当ならば、三浦さんは日本国家に見捨てられたということ。日本政府は『一事不再理』の原則から身柄返還の要求をすべきだった。日米の二つの大国の谷間に落とされて殺されたも同然だ」と憤った。
「有罪だからではなく、疲れていたから自殺を図ったのではないか」とみるのは、三浦元社長を支援していた広島修道大教授のウィリアム・クリアリー弁護士。米当局が訴追を目指すとみられていた共謀罪の肝心の中身については一切、明らかになっていない。クリアリー氏は「私が証人として出廷し、共謀罪についての意見書も出す予定にしていた。どうして簡単に自殺できるような状況が生まれたのか。日本政府は十分な調査を要求すべきだ」と語気を強めた。
月刊誌「創」編集長の篠田博之さん(57)は「二十年も前に発付された逮捕状で二月にサイパンで逮捕して以来、ロス市警は新証拠の存在をちらつかせてきた。しかし八カ月近くたった今でも、新証拠が何か分からない。『新証拠はなかった』と考えるのが普通だろう。このような逮捕が許されていいのか」とロス市警の捜査手法についても批判。「移送直後に容疑者を死なせてしまうとはロス市警は相当ひどい」と声を荒らげた。
三浦元社長が所属している横浜市中区の芸能プロダクションの荒井英夫社長(49)も「(ロスへ)移送の際、護衛もつくほど厳重な態勢だったのに」と移送後の管理の甘さに憤った。荒井さんはこの日、三浦元社長の妻と話したといい、「詳しくは言えないが落胆していた」とだけ語った。
三浦元社長の告白本「ネヴァ」を出版した「モッツ出版」の高須基仁社長(59)は先月末ごろ、三浦元社長から関係者を通じて「ロスで始まり、ロスで終わるのかな」という伝言をもらった。「彼の性格からすると主戦場はロスで、これから米国の当局と闘う意味だと思ったが、今、考えてみると、死に場所ということだったのだろう」と高須さん。その意味は「死をもっての強烈な抗議だと思う。日本の司法に対してもだ。日本で無罪判決が出ていたのに国は何をやってくれたのか。米国による拉致だと思っていた」と、悔しさをにじませた。
(東京新聞)