2008年10月10日(金) 02時31分
国選弁護 報酬過大請求、制度の根幹揺るがす…法テラス(毎日新聞)
国の税金がノーチェックで弁護士に支出されていた。スタートから2年で初めて明らかになった被疑者国選弁護制度を巡る水増し請求問題。3回しか接見していないはずの黒瀬文平弁護士(67)が「5回」と書くと、法テラスは「言い値」で報酬を支払っていた。裏付けとなる書類の添付は不要で、申請をうのみにするシステム。「制度の根幹を揺るがす重大事案」。法テラス幹部は頭を抱えた。【小林直】
報酬請求に必要なのは、「被疑者国選弁護報告書」というA4判の文書1枚のみ。起訴など弁護終了日から14日以内に弁護士が法テラス側に提出する。被疑者名などに続く「接見状況等」の欄に▽日時▽場所(警察署名など)▽接見種別(接見、電話接見など)を書く。07年11月、強盗致傷事件を受任した黒瀬弁護士は実際には訪れていない日に岡山南署で接見したかのように記載した報告書を作成・提出するなどしていた。
「不自然だ。接見回数が多過ぎる」と法テラス岡山(岡山市)が疑念を持ったのは今年春。岡山県警に情報公開請求して接見記録の開示を受け、被疑者国選弁護報告書と照合したところ、次々と水増し請求が発覚したという。
報酬は接見回数を基本に算定するほか、釈放や示談成立など特別な場合は加算がある。制度を決定する論議の段階では、接見回数を裏付ける書類について「『添付が必要ではないか』との声はあった」(元日本弁護士連合会幹部)が、「故意に過大請求すれば詐欺になるのは弁護士なら十分理解している。バッジ(弁護士資格)を失うようなことはしないだろう」との意見が根強く、導入が見送られたという。
「少額だが制度の信頼を根底から揺るがす重大事案」。法テラス幹部は苦渋の表情を浮かべた。税金を使い年間6704件(07年度)も実施されている公的制度。法務・検察首脳は「一つでも穴が開けば過去の支出も疑われる。かといって、さかのぼってチェックする方法もない。何ということをしてくれたのか」とため息をついた。
◇黒瀬弁護士、不正を否定
黒瀬弁護士は7日夜、岡山県倉敷市の自宅で毎日新聞の取材に応じ不正を否定した。詳細な説明を避けたため「税金が入っている。検事まで務めたのだから説明すべきだ」と記者が質問しても「何も言うことはない。警察を呼ぶぞ」と話し、家族にドアを閉めさせた。
約500メートル離れた雑居ビル5階の一室にある弁護士事務所の扉には「当分、不在」と書かれた紙がテープで張り付けてあり、ノックに応答はなかった。【大場弘行】
【ことば】日本司法支援センター(法テラス)
トラブル解決に役立つ情報が得られる身近な窓口をつくろうと、06年10月、司法制度改革の一環で設置した法務省所管の独立行政法人に準じた公的な法人。都道府県庁所在地や過疎地など86カ所に地方事務所があり、弁護士107人を含む約570人の常勤職員が働く。08年度の国の運営交付金や業務委託費は総額約195億円で、被疑者・被告人国選弁護に関する業務のほか▽電話による情報提供▽経済的困窮者への民事法律扶助▽犯罪被害者支援▽司法過疎対策−−などを行う。
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