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2008年10月05日(日) 08時01分

警視庁・青木貴世子巡査部長 敵は心の殺人 性犯罪ケア 被害女児の優しさ励み産経新聞

 “心の殺人”と呼ばれる犯罪がある。人間としての尊厳を著しく踏みにじり、心に深い傷を負わせる性犯罪(強姦と強制わいせつ)のことだ。中でも13歳未満の児童が被害者となる性犯罪の発生件数は、東京都内でここ数年、百数十件のペースで推移。今年も6月までの上半期で60件ほどの性犯罪が発生しているが、警察に届け出のない被害も相当数に上るとみられる。

 警視庁捜査1課で性犯罪の被害者支援を担当する巡査部長の青木貴世子さん(39)。彼女の携帯電話の待ち受け画面には1枚の絵が保存してある。彼女をモデルとした女性の全身像と「お仕事頑張って下さい」のメッセージ。描いたのは彼女が被害者支援を担当した小学生の女児だ。

 性犯罪に巻き込まれたこの女児から事件時の状況を聞き取り、調書の作成に取りかかったときだった。時間を持て余している様子の女児に紙とペンを渡しておいたところ、描いた絵をプレゼントされた。

 理不尽な被害に遭ったにもかかわらず彼女の仕事への気配りを見せる女児の優しさに触れ、「携帯電話を開くたびに、この女の子のことを思いだして自分の励みにしたい」と待ち受け画面にした。

 「被害者の気持ちを代弁できる捜査員になりたい」。青木さんは捜査1課に配属された昨年6月からこれまでに10数人の被害者支援を担当。うち半数は13歳未満の女児だ。被害者の心のケアに努めつつ、容疑者に結びつく情報を引き出し、性犯罪の検挙と抑止を担っている。

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 9月、東京地裁の法廷で、11歳の女児2人に対する強姦と強制わいせつ罪で起訴された男(37)の公判が開かれた。この日、被害女児の父親が法廷に立って意見陳述を行った。

 「娘は犯人の跡を必死でぬぐおうと、シャワーを浴びていた。警察署で事情を聴かれるとき、手を固く握り締めながら話す姿に胸がいっぱいになった。年端も行かない子供を汚すなんて…」

 仕事中に連絡を受けて自宅に戻り、事件を知ったという父親は時折、涙で言葉を詰まらせながらやり場のない怒りと悔しさを訴えた。

 「被害に遭った子供たちは、いつ同じ容疑者に会うかもしれないという恐怖感を常に抱いている。それだけに、容疑者が捕まることですごく安心する」。こう指摘する青木さんがある女児に容疑者逮捕を伝えたとき、こんな言葉が返ってきたことがある。

 「私もお姉ちゃんみたいな女性警察官になりたい」

 携帯電話の待ち受け画面同様、彼女が大切にしている言葉だ。(大塚創造)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081005-00000055-san-soci