2008年10月05日(日) 02時31分
<耕作放棄>市町村長の是正勧告ゼロ…法的歯止め空洞化(毎日新聞)
耕作を放棄している農家には市町村長が法律に基づいて是正を勧告できるが、記録のある97年度以降、勧告は1件も出されていないことが分かった。勧告の前段階に行われる市町村農業委員会による指導も、対象農地が耕作放棄地全体の1%未満にとどまっている。耕作放棄地は埼玉県の面積に匹敵する約38万ヘクタールとされるが、耕作放棄への法的措置が事実上とられていない実態が浮かんだ。
耕作放棄へ行政指導できる制度は、農地利用増進法(現・農業経営基盤強化促進法)で90年に整備された。食料生産を担う農地には公共性があり、農家の都合だけで耕作しないことを防ぐためだ。農業委員会が農家へ是正を指導し、従わない場合は市町村長が必要な是正措置を勧告することになっている。
勧告件数について農水省は「97年度以降1件もない」と説明。「96年度以前は記録がないため勧告の有無は不明」としており、90年の法整備以降一度も出されていない可能性がある。
農水省は05年、農業経営基盤強化促進法を改正。農家が是正勧告に従わない場合、知事の判断で他の耕作者に利用させる措置を加えて指導の仕組みを大幅に強化したが、「勧告ゼロ」は続いている。同省は「指導力が及ばなかった。法改正で強化された措置をとるよう周知しており、結果が出るのはこれから」と説明している。
一方、農業委員会による是正指導は、耕作放棄地の増加とともに伸び、05年は全国で1万163件だった。しかし、指導対象の農地面積は1495ヘクタール。05年の農水省の統計「農業センサス」は耕作放棄地を38万6000ヘクタールとしており、全体の0.4%にとどまる。
農業委員会の上部組織、全国農業会議所の柚木茂夫農地・組織対策部長は「指導件数の数字に表れない相談活動などは相当あると思うが、耕作放棄地に比べて指導面積が少ないのは事実。指導の徹底を求めている」と話している。【奥山智己】
◇耕作放棄地
農林水産省は「所有する耕地のうち、過去1年以上作付けせず、今後数年間再び作付けする意思のない耕地」と定義する。05年の統計では38万6000ヘクタールと20年前のほぼ倍で、全農地の1割近い。後継者不足の中山間地に多いが、好条件の平野部でも農家が開発業者に事実上売却してしまうなど、理由はさまざまある。農水省は食料自給率向上のため、12年をめどにゼロにするとの目標を掲げ、全国の農地一筆ごとの実態調査に今年乗り出した。
◇採算取れる状況を…農地制度に詳しい原田純孝・中央大法科大学院教授の話
耕作放棄が広がる背景には、農業が採算に合わないことをはじめさまざまな要素がある。このため「耕すも耕さないも持ち主の勝手」という私有財産権の主張に強く踏み込んだ是正指導だけでの解決は難しい。市町村長は現場に近く、選挙もあって勧告しづらいのではないか。農地を耕さなければ損だという状況を作り出す全体的な政策と制度の見直しが必要だ。
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