2008年10月02日(木) 21時45分
橋下知事に200万円賠償命令 判決要旨(産経新聞)
山口県光市の母子殺害事件の弁護団への懲戒請求をめぐる訴訟で、大阪府知事でもある橋下徹弁護士に賠償を命じた2日の広島地裁判決の要旨は次の通り。
【主文】
被告は原告ら各自に対し200万円を支払え。
【事実及び理由】
■第1 請求の趣旨
(略)
■第2 事案の概要
(略)
■第3 裁判所の判断
▽1 発言が名誉棄損に当たるか
「一斉に弁護士会に懲戒請求かけてもらいたんですよ」「この番組見てる人が一斉に懲戒請求かけてくださったら、弁護士会も処分出さないわけにはいかないですよ」といった発言は、弁護団に属する弁護士に対する懲戒を大規模に行うよう呼びかけるものであることは否定する余地がない。
光市事件の被告人の主張を弁護人が創作したという趣旨の発言については、刑事事件では被告人が主張を変更することはしばしばあり、本件でも弁護人が創作したものかどうかについては、弁護士であれば少なくとも速断を避けるべきだ。発言は原告らの名誉を棄損し、不法行為に当たる。
原告らの弁護活動は懲戒に相当するものではなく、橋下弁護士がそのように信じた相当な理由もない。
▽2 発言がそれ以外の不法行為に当たるか
弁護士懲戒制度は弁護士会の自主性や自律性を重んじ、弁護士会の弁護士に対する指導監督作用の一環として設けられた。しかし懲戒請求を受けた弁護士は根拠のない懲戒請求で名誉を不当に侵害される恐れがあり、弁明を余儀なくされる負担も負うことになる。
そうすると、請求する者は請求を受ける者の利益が不当に侵害されないように、根拠を調査・検討すべき義務を負う。根拠を欠くことを知りながら請求したときには不法行為になる。また当該弁護士の所属弁護士会に請求すれば十分であって、公衆に対し請求するように呼びかける必要性は一般に想定できない。
ことにマスメディアを通じて特定の弁護士への請求を呼び掛け、弁護士に不必要な負担を負わせることは、懲戒制度の趣旨に照らして相当性を欠き、不法行為に該当する。原告らは1人当たり600件を超える極めて多くの懲戒請求を申し立てられ、精神的、経済的な損害を受けたと認められるから、被告の発言は不法行為に当たる。
橋下弁護士は、多数の請求がされた事実によって、原告らの行為が弁護士の品位を失うべき非行に当たると世間が考えていることが証明されたことになり、違法性はないと主張する。
しかし弁護士は少数派の基本的人権を保護すべき使命ももっているのであり、その職責を全うすべき活動が、多数派の意向に沿わない場合がありうる。
また刑事弁護人は被告人の基本的人権の擁護に努めなければならないのであって、その活動が違法なものでない限り、多数の者から批判されたことをもって弁護人の活動が制限されたり、懲戒されることはあってはならないことである。橋下弁護士の主張は弁護士の使命・職責を理解していない失当なものである。
橋下弁護士の発言は懲戒事由として根拠を欠いており、かつ、そのことを橋下弁護士は知っていたと判断される。
橋下弁護士が今回の発言で示した懲戒事由は、(1)弁護団が被告人の主張として虚偽内容を創作している(2)その内容は荒唐無稽(むけい)であり許されない−ということである。
しかし創作したことを認められる証拠はなく、被告の憶測にすぎない。また被告人の主張が不合理で荒唐無稽だったとしても、弁護人が被告人の意向に沿った主張をする以上、それは弁護人としての使命・職責を果たしたと評価でき、弁護士としての品位を損なう非行とは到底言えない。
橋下弁護士は、原告らが一般市民や被害者遺族に対し、差し戻し控訴審で新たな主張をするようになった経緯や理由を説明すべきだったと非難する。
しかし、そもそも弁護人がそのような説明をしなければならない法律上の根拠は全くない。弁護人が訴訟手続きの場以外で事件について発言した場合、その結果を予測することは困難であり、被告人に不利益をもたらすこともある。
現に弁護団は記者会見を開いたが、その主張はほぼすべての報道機関により誹謗(ひぼう)中傷の的とされた。橋下弁護士のいうような説明をしなかったことも、弁護人の使命・職責を果たすために必要だったと評価することもでき、懲戒事由に当たらない。
▽3 発言と損害との間に因果関係はあるか
橋下弁護士の発言は全国で放送され、前日の平成19年5月26日まではゼロだった請求件数は、放送後20年1月21日ごろまでに原告1人当たり600件以上になった。
またインターネット上には懲戒請求書の書式が掲載され、請求の多くはこれを利用していた。書式を掲載したホームページには発言を引用したり番組の動画を閲覧できるサイトへのリンクを付けて発言を紹介、請求を勧めるものがあった。
これらのことからすると、多数の請求がされたのは橋下弁護士が視聴者に請求を勧めたことによると認定できる。橋下弁護士は請求は一般市民の自発的意思に基づくと主張するが、因果関係があるのは明らかだ。
▽4 発言で生じた損害の有無と程度
原告らは請求に対応するため答弁書作成など事務負担を必要とし、それ以上に相当な精神的損害を受けた。もっとも橋下弁護士の呼び掛けに応じたとみられる請求の多くは内容が大同小異で、広島弁護士会も懲戒しないと決定した。経済的負担について原告の主張そのままは採用しがたい。
弁護士として相応の知識・経験を有すべき橋下弁護士の行為でもたらされたことに照らすと、精神的、経済的損害を慰謝するには原告ら各自に対し200万円の支払いが相当だ。
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