2008年10月02日(木) 10時22分
<橋下知事>「光母子弁護団懲戒」TV発言で賠償命令 (毎日新聞)
山口県光市の母子殺害事件(99年)を巡り、橋下徹弁護士(現・大阪府知事)のテレビ番組での発言で懲戒請求が殺到し業務に支障が出たなどとして、被告の元少年の弁護士4人(広島弁護士会)が計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2日、広島地裁であった。橋本良成裁判長は「橋下氏の発言と懲戒請求との間に因果関係があることは明らか」として橋下氏に1人当たり200万円、計800万円の支払いを命じた。
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光市事件を巡っては、被告の元少年側弁護団が差し戻し控訴審で「(事件の動機は)失った母への恋しさからくる母胎回帰によるもの」などと主張。一部世論が反発する中、橋下氏が昨年5月放送の情報バラエティー番組「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ)で「許せないと思うなら一斉に弁護団の懲戒請求をかけてもらいたい」などと発言した。直後から弁護団メンバーが所属する弁護士会への懲戒請求が急増。日弁連によると、07年末までに計8095件の請求があった。
橋下氏を提訴した今回の訴訟で、原告側は「被告人の利益を最大限主張することが刑事弁護人の職責。橋下弁護士も理解しているはずなのに、懲戒請求を促したのは極めて悪質」などと主張。多数の懲戒請求と橋下氏の弁護団批判で「請求への対応に追われて業務に支障が生じ、弁護士としての信用を傷つけられるなど精神的な苦痛を受けた」として1人当たり300万円の損害賠償を求めていた。
橋下氏側は「懲戒請求は(請求者の)自発的意志に基づくもの」として、発言が請求を誘発したことを否定。更に「07年4月の最高裁判決は懲戒請求の根拠を調査・検討する義務を示しているが、その対象は実際に請求した者。(呼びかけただけの)被告に義務はない。仮にあったとしても調査・検討を尽くした」と反論した。また「懲戒請求で負担が生じたのは弁護士会の責任」などと原告側の損害との因果関係も否定した。【矢追健介】
橋下徹弁護士(大阪府知事)の話 地裁の判断は重く受け止める。表現の自由を巡る法解釈を誤っていた。ただ3審制ということもあり、控訴して高裁のご意見を伺いたい。
原告弁護団の児玉浩生弁護士の話 懲戒請求が大量に届いたという異例の事態に対する、過去に例を見ない判決だ。
<判決骨子>
◆名誉棄損にあたるか
懲戒請求を呼びかける発言は、原告の弁護士としての客観的評価を低下させる。
◆懲戒制度の趣旨
弁護士は少数派の基本的人権を保護すべき使命も有する。多数から批判されたことをもって、懲戒されることがあってはならない。
◆発言と損害の因果関係
発言と懲戒請求の因果関係は明らか。
◆損害の有無と程度
懲戒請求で原告は相応の事務負担を必要とし、精神的被害を被った。いずれも弁護士として相応の知識・経験を有すべき被告の行為でもたらされた。
◇「根拠ない請求」は違法=解説
テレビを通じて懲戒請求を促した発言の違法性が問われた裁判で、広島地裁は橋下氏が単なるコメンテーターではなく、懲戒請求の意味を熟知した弁護士だったことで極めて厳しい判断を示した。また光母子殺害事件報道についても、弁護団が「一方的な誹謗(ひぼう)中傷の的にされた」として苦言を呈した。
根拠がないことを知りながら懲戒請求するのは違法とした最高裁判決(07年4月)があり、個々の請求者には根拠を調査・検討する義務がある。原告側によると、今回の請求の中には署名活動感覚で出されたものが多く含まれていた。橋下氏は視聴者に呼びかけながら自らは請求しなかったが、判決は橋下氏が弁護士である以上「根拠を欠くことを知らなかったはずはなく、不法行為に当たる」と断じた。
弁護士法では、懲戒請求は弁護士の品位を保つためにあり、数を頼んで圧力を掛けることは想定していない。懲戒請求で弁護活動が萎縮(いしゅく)すれば被告の権利に影響が出る。それゆえ最高裁判決も「根拠のない請求で名誉、信用などを不当に侵害されるおそれがある」と請求の乱用を戒めている。
報道姿勢に関しては、問題の番組は録画にもかかわらず、発言をそのまま放送した。専門家は「弁護団の主張に違和感があっても、『気に入らないから懲らしめろ』では魔女狩りと変わらない。冷静な議論をすべきだった」と警鐘を鳴らす。橋下氏と同時に、メディアの責任も問われた。【矢追健介】
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