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2008年09月14日(日) 18時38分

スーツケースに押し込まれた女性遺体の謎…新宿ホテル腐乱遺体事件産経新聞

 廊下に充満した“腐った漬物”のような匂い。当初は宿泊客による硫化水素自殺が疑われた新宿ワシントンホテル(東京・新宿)の異臭騒動だった。が、腐臭の元は、スーツケースに詰められた女性の腐乱遺体だと判明した。女性の身元は不明で、8月上旬から客室を転々としながら連泊していた男は姿をくらましたまま。女性は男と一緒に宿泊していた最中に病死した可能性が高いという。都心のホテルの室内に放置された女性の遺体。そこにはどんな事情が隠されているのだろうか。(中村翔樹)

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 ■猛烈な異臭…だがガス検知器反応せず

 「原因が分からず、不安だったんですよね」
 大阪からの出張で宿泊していた男性客(35)がこう振り返るように、事件の予兆はあった。
 遺体発見前日の4日午後6時20分ごろ、ホテル24階で異臭騒ぎが起きた。
 「硫黄のようなにおいがする」
 宿泊客の訴えを受け、ホテル側は119番通報した。
 《ホテル》
 《異臭》
 このキーワードの組み合わせに、東京消防庁は最近相次いでいる硫化水素自殺の可能性もあるとみて、化学車などを出動させた。
 ところが…。
 廊下には異臭が立ちこめていたものの、完全防備の消防隊員がかざすガス検知器は一向に反応しない。24階のすべての客室に救急隊員らが入ったが、客が倒れていたり、異物が放置されているといった外見上の異常はなかった。
 「漬物を廊下に落としたのかもしれない」
 「フロア北側が特ににおいが強いことはわかったんだが…」
 救急隊員でさえも異臭の正体は突き止められず、ただ首をかしげるばかり。有毒ガスの発生などの危険はないと判断し、東京消防庁は隊員を撤収させた。
 遺体の臭気はクサヤやミソを腐らせたような独特の匂いがするとされ、元東京都監察医務院長の上野正彦氏は「一度、かいだことがある人間なら忘れられず、絶対に分かるはず」と指摘する。
 警視庁の警察官も現場にいたが、異臭の元は特定できなかった。「あのとき発見できていれば、状況が違っていたかもしれない」(捜査関係者)
 実はこのころ、ホテル内での騒ぎに焦ったのか、カギを握る男は遺体入りのスーツケースやバッグを残したまま、忽然と姿を消した。

 ■折りたたまれた女性腐乱遺体に何重ものビニール

 問題のスーツケースが発見されたのは、異臭騒ぎから丸1日以上経った5日午後8時。
 「漬物のような匂い」が収まらず、たまりかねた宿泊客が再度、ホテル側に訴え、通報で駆けつけた新宿署員が、ようやく24階の客室にあったスーツケースを探りあてたのだ。
 署員が慎重にスーツケースを開けた。
 縦約70センチ、横約55センチ、幅約45センチの小さなスーツケース。そこに、身長154センチの女性が窮屈そうに体を折り曲げられ、詰め込まれていたのだ。
 2日間にわたってホテルを悩ませた異臭騒動の正体は腐乱遺体だった。
 女性の年齢は推定50代で死後数日以上経過。あまりに腐乱が進んでおり、司法解剖を行っても、死因は特定できなかった。
 遺体はカーディガンなどの衣服をきっちりと身につけていた。遺体の扱いに慣れた捜査員をも難渋させたのは、1枚1枚取り外すのに「何時間も要した」というほど、ビニールで何重にもぐるぐる巻きにされていたことだ。
 「ビニールは腐乱臭を防ぐためだったのかもしれないが、それでも漏れてきた異臭は、どれほどのものだったんだろう」
 報告を聞いた捜査幹部はそう話す。
 現在でも、その異臭が残るというホテル24階は利用停止の状態が続き、ホテル関係者が常駐して警備にもあたっている。
 京都から出張で来た女性客(22)は「直接の影響はないことは分かるんですけど、やはり気味が悪いですよ」。

 ■愛情? 不倫? 消えた「連泊の男」を追う

 遺体の女性と、姿を消した男はいったいどういう人物なのだろうか。
 男はスーツケースとともに、女性のものとみられるバッグを残していた。中には生活圏がうかがえるようなカード類などが入っていたが、名前や住所が記されているものはなく、身元は特定されていない。
 捜査幹部は「前日の異臭騒ぎで男は慌てて逃げたのかもしれないが、身元が判明しないように、必要最低限のものは抜き取ったのだろう」と分析する。
 遺体が見つかった客室はシングル。前金制で、男はアシがつかないようにクレジットカードは使わず、現金で支払っていた。宿泊客名簿の住所欄は一部しか記載されていなかった。氏名欄も埋めていたが、捜査員は「恐らく偽名だろう」とみている。
 男は8月上旬からホテルに連泊していた。当初はツインルームに入った。このころは、女性は生存していたとみられる。
 だが数日後、シングルに変更した。捜査幹部は「この時期に女性は死亡した」と推測する。
 それにしても、わざわざ偽名を使って宿泊し、死亡した女性を放置して去った男の目的は何だったのか。上野氏は「一般にスーツケースに遺体を詰めるのは、殺害後に別の場所に遺棄するために運ぼうとする際が多い」と話す。ただ、「殺害目的に客室を使った可能性も捨てきれない」。
 男は、女性が死亡後もすぐには逃走せず、遺体を詰めたスーツケースとともにホテル内の客室を転々としていたとみられる。上野氏は「子供の死を受け入れられず、母親が子供の遺体を何日も持ち歩いていた例もある。愛情が強く、離れがたかっただけかもしれない」との見方も示す。
 男は、9月に入ってから遺体が見つかった部屋に移った。以後、ベッドメーキングを断り、部屋に従業員を入れていない。
 「腐乱が進んで、匂いがし始めたことが想像できる」(捜査幹部)
 警視庁捜査1課は、遺体に外傷はなく、当初は男と2人で宿泊していたとみられることなどから、女性は病死の可能性が高く、男が遺体の処理に困って部屋を転々していたとの疑いを強めている。
 死に際を看取るほどの女性を埋葬しなかった理由については憶測が飛び交う。「不倫関係の逃避行の末なのか? 何かしらやましいことがあったんですかね」(宿泊客)。
 「真相を知る、匂いと遺体を残して姿を消した男を探すしかない」
 捜査1課は、ホテルの防犯カメラの映像を解析するなどして男の特定を急ぐとともに、行方を追っている。

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