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2008年09月09日(火) 11時49分

タブバーに見る“Google Chromeの設計思想”ITmedia Biz.ID

 Googleがリリースしたことで大きな話題となったWebブラウザ「Google Chrome」。1日でシェアの1%を獲得したという調査結果が発表されたり、利用規約の一部が問題になったりと、リリース後数日経っても話題には事欠かない。実際に使ってみた人はどのような感想を持っただろうか。

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●Google Chromeのタブの位置、便利?

 Google Chromeをダウンロードした多くのユーザーとおそらくは同じように、筆者もここ数日はほかのブラウザと併用しながら使用感を試している。Gmailはさくさく表示してくれるし、テキストエリアを自由に拡大縮小できるなど便利な機能もあって楽しいのだが、ちょっと手こずっているのがタブの切り替え動作だ。

 これまで使ってきたブラウザでは、マウスジェスチャでタブを切り替えていたのだが、Google Chromeではマウスジェスチャは使えない。慣れてしまえば、[Ctrl]+[Tab]のキーボードショートカットを使うのが一番早いだろうが、マウスカーソルをタブのところに持っていっていちいちクリックして切り替えることも多い。

 これがGoogle Chromeでは少々面倒なのだ。FirefoxやInternet Explorer(IE)ではタブはアドレスバーやツールバーの下にあるのだが、Google Chromeの場合はタブをウィンドウの一番上に配置している。マウスカーソルを動かす距離にすれば、たかだか数十ピクセルの差だろうが、ページ表示領域のすぐ上に「ある」と思ったタブが「ない」のは、何度も繰り返すとけっこうストレスを感じるものだ。

 Google Chromeがこうした独自のユーザーインタフェースを採用したことには、どのような狙いがあったのだろうか。

●フレームを意識させないために“むきだしでタブを置く”

 米Googleエンジニアリング・ディレクターのライナス・アプソン氏によると、Webブラウザの世界で“chrome”と言えばウィンドウのタイトルバーやツールバーのことを指す。タイトルバーなどを取り払い、タブを一番上にむき出しで置くことで、ユーザーに“chrome”を意識させない——というデザイン上の意図があったようだ。chromeを外したのにあえて“Google Chrome”と名付けたのは「皮肉っぽいネーミング」(同氏)。

 また、タブの1つ1つにツールボタンやOmnibox(オムニボックス:アドレスバーと検索バーを統合した「多機能ワンボックス」の通称)を入れ込んだようなデザインにすることで、各タブが独立したプロセスで動いているイメージを喚起する効果も狙っている。

 フレームがないGoogle Chromeのページ表示領域は確かに広い。他ブラウザのように[F11]キー一発で全画面表示する、といった機能こそないが、[Ctrl]+[B]でブックマークバーのオン/オフを簡単に切り替えられるなど、とにかくページを広く見せようという意図が感じられる。

 タブをドラッグ&ドロップするような動作で別ウィンドウを開いたり、すでに開いているウィンドウ間でのタブ移動もスムーズだ。タブバーを最上段に置いて目立たせることは、こうしたGoogle Chromeの機能を、ユーザーに直感的に使用してもらうための工夫なのかもしれない。

●FirefoxやOperaの設計思想とは?

 Firefoxを提供するMozilla Japanでは、「現バージョンのユーザーインタフェースがベストと考えているわけではないし、ユーザーの声によっては変更する可能性もある」という。

 ツールバーの右クリックメニューからカスタマイズ設定すれば、一番上のメニューバーに「タブの一覧」アイコンを表示することも可能だし、「Tab Mix Plus」や「Tab Kit」などの拡張機能を使えば、タブバーをページの上下左右などに表示できる。Mozilla Japanは「どんな配置が使いやすいかというテストはしている。だが、あくまでも、ユーザーが好みに応じて選べるということが重要」と強調する。

 タブブラウザの草分け的存在として知られるOperaでは、デフォルトではタブバーをメニューバーとアドレスバーの間に配置している。アドレスバーがタブバーの下にあるのは、「ブラウザにおいて1つ1つのタブは独立しており、各タブの中で表示されるページ情報を示すアドレスバーは、当然各タブに帰属するものである」という設計思想によるものだという。

 Operaは、ブックマーク管理やダウンロードマネージャなどを、Webページと同様にタブとして表示する仕様だ。Webページ以外のタブをクリックした場合は、アドレスバーを自動で非表示にするなど、「ユーザにとって一番使いやすいインタフェースを考慮した結果、今の配置となっている」と説明する。

 また、タブバーやブックマークバーの位置をページ最下部やサイドバーにも変更できる。ツールメニューの「外観の設定」から変更でき、拡張ファイルなどをダウンロードする必要はない。個人的には、こうした辺りに「ブラウザ開発の一番のプライオリティをユーザビリティの向上にあてている」というOperaの設計思想が感じられた。

 なお、Internet Explorer 7/8も、タブバーの位置は固定だ。位置そのものはアドレスバーの下で、従来型のタブブラウザを踏襲している。この位置に何らかの意図があるのかどうかは、マイクロソフトに問合わせ中だが、固定していることを考えると、Google Chromeと同じように、あえてそこに配置しているのかもしれない。

 こうしてみると、Google ChromeとFirefoxは対照的。Google Chromeが設計思想を前面に押し出したユーザーインタフェースで、そもそも拡張機能を必要としないようなデザインであるのに対して、Firefoxは、インストール直後のいわゆる“素”の状態から、ユーザーが自分にあったインタフェースを作っていくデザインである。

 固定的なインタフェースのGoogle Chromeと、拡張機能をダウンロードすることで自由にカスタマイズできるFirefox。この両者のいいところを併せた、と言えそうなのがOperaだ。最も使いやすいと考えるインタフェースを提示した上で、さらに拡張機能をダウンロードすることなくインタフェースをカスタマイズできるからである。

 普段何気なく使っているボタンの大きさ、ツールバーの位置などちょっとした点に思いを巡らせてみれば、設計者の込めた“思想”もなんとなく見えてくる——。

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