2008年08月27日(水) 11時42分
『TOKYO!』、気鋭3監督たちの東京談義に密着!?(オーマイニュース)
ソウル・パリ・ニューヨークで注目される気鋭3監督によるオムニバス映画『TOKYO!』が好評公開中だ。『グエムル—漢江の怪物—』のポン・ジュノ、『ポンヌフの恋人』のレオス・カラックス、『エターナル・サンシャイン』のミッシェル・ゴンドリーがトウキョウをテーマに競作する!!
と、お披露目となったカンヌ映画祭でも大いに話題になった。特に『ポーラX』以来9年ぶりの劇場新作になるカラックスは製作自体がニュース。フランス人ジャーナリストは大騒ぎであった。そんな3人の監督のインタビューをお送りしよう。
この3人。性格的にも作品的にもかなり違いのある人たちで、出来上がりはオムニバスと言いながらほとんどつながりのない中編3本になっているのが面白い。在仏日本人プロデューサーと日本の配給会社の企画・製作によるものだが、監督を信頼して任せるという太っ腹ぶりがこの異色の顔合わせを成功させたのであろう。
ゴンドリーが描く第一篇(ぺん)は「インテリア・デザイン」東京で映画監督になるべく自主制作した作品を持って田舎から出てきたカップル。同級生の部屋に転がり込むものの上映のめどどころか生活のあてもない。気持ちがすれ違ううち居場所を失ったと感じた娘は椅子(いす)に変身してしまうのだが……。
───東京についてのリサーチはしましたか?
ゴンドリー「もちろんしましたとも。地方から東京に出てきた若い人のリアル・ライフを知りたくて、同じ暮らしぶりの人にあって食事をしたりして。大都市に外からやってくるということはどういうことなのか、その気持ちや経験を知りたかったのです。彼らを理解することがまず面白かったですね。最初は友人でもあるガブリエル・ベルのコミックブックから。“NYで自分の友人を部屋に泊めたとき、自分が役に立たない椅子のような気がして、透明になってしまいたいと思った”という話を脚色しました」
「東京の人たちって距離感があるのにくっついている。ほら、満員電車とか、狭いところに人がいっぱいいるでしょ。でも、それぞれはパーソナルな空間を持っていて、互いにリスペクトしている。そんな中でシャイなキャラクター、透明になっちゃいたいと願うキャラクターを描いてみました。 えっ? 僕自身? 若いころは静かだったけどね、見られていたかったし、透明になりたいとは思わなかったなぁ。今みたいな、みんなに見てもらえる位置っていいよね、と思ってます」
第二編はレオス・カラックスの「メルド」。東京の下水道に住む怪人メルド。時々マンホールから地上にあらわれて町を混乱に陥れる。地下に隠された旧日本軍の爆弾を見つけた彼はそれを渋谷の町にぶちまける。誰にもわからない言葉でしゃべるメルドを捕まえ裁くことはできるのか!?
───ほかの2本とはだいぶ違う話で戸惑っています。テロルについての物語と考えてもよろしいのでしょうか。
カラックス「私は脚本をパリで書きました。この物語は恐怖や嫌悪についてのもので、日本についてのものではないと考えています。メルドというキャラクターは今回のオファーがある前から考えていて、どこの町でも良かったんです。特に東京にこだわったわけではありませんが、日本のポップ・カルチャーに興味があったので引き受けました。メルドはゴジラのようなキャラクターで、南京や光州のような事件ともつながっているのです」
「リサーチは綿密にしました。けれど、それをリアルには応用しません。リサーチしたのに使い方が違うので不思議がられましたが。絞首刑についてや、公判はどのように行われるか、なども調べました。しかし詳細については秘密にされていて誰も知らないし、写真もなくてリサーチするにも限界を感じましたね。参考になればと大島渚監督の『絞死刑』も見ましたよ」
ゴンドリー「今思い出したんだけれど、75年にさ、兄弟とゴンドリー語ってのを作ってね、ひと夏使ってたな。親にわからないよう兄弟だけの秘密のコミュニケーションのためにね。君がメルド語を造って使うと知っていたら、僕も話せるようにして使ってたのにな」
ジュノ「同じような言葉を使ってた映画があったっけ。ええと『宇宙人、地球を救え』とかいう……」
最後はポン・ジュノ「シェイキング東京」。引きこもりの男がピザの配達員の少女に恋をして彼女を探しに家を出るという物語。みんな引きこもってしまったかのような東京の街に突然の地震がおきて……。
───引きこもりというモチーフはどこから?
ジュノ「僕は写真集が好きで、日本に行くたびに六本木の青山ブックセンターという本屋に必ず寄るんですよ。そこで見た『東京NOBADY』という写真集がとても気に入っていてそのイメージが今回の元になっています。誰もいない東京を撮っている……」
カラックス「それ、私も知っています。見たことがある」
ジュノ「中野正孝っていう若いカメラマンの作品なんだよね」(話がずれそうになるのを修正して)
ジュノ「僕がモチーフにしたのが“ひきこもりの男”。極端だけれど彼に東京の人たちの孤独感、寂しさというものを象徴させてみたんです。彼はそれを自分で招いている。そしてこの問題は世界のどの国にもある現象だと思います。といっても、僕は引きこもりの問題を掘り下げようとは思っていませんが」
ゴンドリー「僕、引きこもりの人にあったことがあるよ。11年間日光に当たらず引きこもっていたんだって。ずっとエアコンをかけっぱなしだったんで、エアコンの音がしていないと不安なんだって言ってた。NYだとさ、消防自動車の聞こえていないと不安になるのといっしょかな」
「日本の家って狭いじゃない。なのにたくさんのものを買うんだよね。君の作品で引きこもりの主人公が、買い込んだものをシンメトリーに積み重ねていくじゃない。あそこが面白かったなぁ。トイレットペーパーの芯(しん)まで……、あれは面白いよ。僕が『恋愛睡眠のすすめ』を作ったときトイレットペーパーをみんなに集めてもらったことを思い出した」
ジュノ「芯のにおい、好きなんだよね」
ゴンドリー「引きこもりの人のポジティブな面を描いているわけじゃないよね。住むのが大変そうだなって思うし」
ジュノ「引きこもる人ってだいたい親と暮らしているわけ。食事とか運んでもらわないといけないから。でも今回は家族と切り離して孤独な状態を作り出した。まぁ、中にはひとり暮らしで引きこもっている人もいるそうだしね。彼らは昼夜のリズムも違うだろうし、時間の概念が変わってしまっているんじゃないかと思ったんだよね。彼らはどういうリズムで生活し、時間をどう感じているのか、それをどう表そうかって考えていきました」
3人の作家に共通点があるとしたら、3人ともビジュアルにこだわりがあり、リアルさよりもイメージをいかに物語にしていくかに心砕く人であるということ。
この場合、監督のビジョンを映像に移し替えるカメラマンという仕事はひじょうに重要なものになるのだ。
───日本のスタッフ、特にカメラマンとの仕事についてはいかがでしたか。
ジュノ「行定勲監督の『ロックンロール・ミシン』を見たときにこの福本淳カメラマンと照明の市川徳充はいいなと思っていたのでお願いしました。日本映画を見るたび、どんな人とコラボレーションできるか楽しみだったので、このふたりと組むことになってわくわくしましたね。日の光でどう表現するかというシーンが多かったので、このふたりならと思ったわけです。結果として、楽しい作業になりました」
ゴンドリー「ガブリエル以外は連れて行かないと決めていたので、どんな人と仕事をするのかチャレンジだと思っていました。最初にオファーした方はスケジュールの都合がつかなくて、照明の使い方が気に入ってセカンドチョイスでお願いしたわけですが、撮影初日にフランスなら考えられないことが起こったのです。フレーミングが気に食わないとカメラマンが撮影を止めちゃったんですよ。どうしようかと思ったけれど、そのまま彼の考えるとおりにやらせてみたら、いいんですよこれが。全編通していい仕事をしてくれたと思っています。それと、フォーカスを送る助手が小柄な女の子なんですが、上手でね、これも良かった」
カラックス「最初にビデオで撮影すると決めました。私はデイリーをチェックしないので信用できる人でないといけない。それに英語でコミュニケーションが取れてスケジュールの合う人という条件に合う人がいなかったんです。それでフランスからカロリーヌに参加してもらいました。彼女ならビデオの経験もあるし、同じプロデューサーと日本の仕事をしたこともあるので安心だったので」
3人の監督合同インタビューといっても、まじめでサービス精神旺盛なポン・ジュノ、寡黙で気難しく哲学的なレオス・カラックス、おしゃべりで気ままなミッシェル・ゴンドリー、が、おとなしく順繰りにしゃべるわけがない。質問にまじめに答えるジュノ、むっつりと言葉少ないカラックス、ふたりの横から思いついたことをしゃべり始めてしまうゴンドリー。
その発想や意見に反応して質問の答えはどこへやら、3人の監督の映画談義や東京談義が始まってしまうのである。オムニバスだから監督たちが顔を合わせることはこういう機会くらいしかないのでしかたあるまい。こちらとしては困ったような、監督たちのおしゃべりに紛れ込んだうれしさのような、複雑な気持ちになったインタビューだった。
(記者:まつかわ ゆま)
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