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2008年08月27日(水) 11時40分

「チベットに戻って、国のために死にたい」オーマイニュース

 3月14日に中国・チベット自治区ラサで起こった武力鎮圧事件。そこでデモに参加した元政治囚で、事件以降にインドに亡命したクンサン・ソナムさん(38歳)に、ダラムサラにあるチベット亡命政府の難民受け入れセンターで話を聞いた。

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■中国役人は賄賂(わいろ)を渡せばパスを出す

───ラサからこちらに来たんですか?

 3月26日にラサを出て、車で28日にネパールに着きました。ダラムサラに着いたのは4月28日です。私は騒乱が起こる前にネパールに来るビザを取得していたので、それを使いました。

───パスは、騒乱の前に取ったものですか。

  2007 年に取ったものです。中国人にルートを持つ友人に頼んで、5000元を支払って取得しました。コネがない人の場合は、3万〜5万元の賄賂が必要のようです。このパスは1カ月間、ネパールのみの滞在を許可するビジネスビザのようなものです。ラサの事件後、私も逮捕される可能性があったため、国境警備隊に捕まるのも同じことだと考えて、亡命に挑戦してみようと決意しました。

■目の前で友人が撃たれた

───ラサではデモに参加していたんですか?

  3 月14日、朝10時から夜9時まで、ラサのいたるところでデモをやっていて、そこに参加しました。当初は平和的デモでしたが、中国軍がお坊さん1人とおばあさん1人をナイフで刺し殺したんです。それでチベット人が怒って石を投げましたが、軍隊にはかないません。そこで、また場所を変えてデモを行いました。

 はじめは20〜30人のデモでしたが、「チベットに独立を」「ダライ・ラマに長寿を」「同胞よ蜂起せよ」というスローガンを叫びながら300〜400人に膨れ上がっていきました。そこで中国側から発砲が始まり、こちらも石を投げて応戦しました。

 その発砲で、ニマという友人が撃たれ、通りかかったタシという友人の家に彼を避難させました。ニマはその後、亡くなり、タシは逮捕されてしまいました。

■破壊活動をしたのは漢族だ

───中国側は、チベット人による破壊行為の映像を出していました。

 チベットにはふだんから、チベット人と同じ服を着てチベット語を喋(しゃべ)るチベット人そっくりの漢族がいました。中国のスパイです。3月14日、彼らが全員、急に姿を消しました。私たちは平和的デモをやっていただけなのですが、姿を消したスパイたちが、チベット人の服を着て店を襲ったり火をつけたり車をひっくり返したりしました。彼らはすべて中国側が用意した人々だと思います。

───中国軍が狙撃手を使ってビルの上から銃撃していたという話も聞きますが。

 私自身はスナイパーは見ませんでした。中国軍が、装甲車の小さい窓から銃を乱射してチベット人を殺しているのは見ました。その乱射で6人のチベット人が血まみれで倒れ、中国人たちは倒れたチベット人たちをすべて車に乗せて連れ去ってしまいました。その後には、一面の血の海だけが残っていました。

■逮捕歴3回、死ぬ覚悟はできている

───ネパールの難民センター到着後は?

 一時はチベットに帰ろうかとも考えました。しかし中国国内の家族や親戚(しんせき)に電話してみると、公安の手が回っていました。デモに参加していない兄まで「デモに参加した」として逮捕され拷問を受けて、釈放後1週間も入院していました。その兄が私に「帰ってきても死ぬだけだ」と言うので、死んだ友人のことをダライ・ラマ法王に話すためにも、ダラムサラに来ました。

───ダラムサラでの生活はいかがですか?

 インドという自由な国で、安心感を得ることもあります。一方で、チベットで仲間の死を見た者として、心の中に重いものがあります。生活には不自由なく、亡命政府には感謝しています。

───今後の予定は?

 チベット本土では、チベット語も中国語も勉強することができなかったので、ダラムサラでまず勉強をしたいと思っています。しかし、ここで仕事を探す気はありません。いずれまたチベットに戻って、国のために死ぬことができれば本望です。今までチベット本土で3回逮捕され、幸運なことに今まで死なずに済みました。しかし私の周りでは人が死んでいます。次にチベットに戻ったら死ぬ覚悟はできています。

───日本に何かメッセージをいただけますか。

 ダラムサラで日本のメディアと知り合うことができました。そして日本のみなさんが関心を持ってくれてサポートの意志を持ってくれていることに、チベット国民600万人に代わって感謝の意を申し上げます。ありがとうございます。

(記者:藤倉 善郎)

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