2008年08月26日(火) 12時48分
「チベットの民主主義は6点」(オーマイニュース)
前回に引き続き、インド・ラダムサラで亡命チベット代表者議会のカルマ・チョペル議長に、チベットの民主制度について語ってもらった。
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■地方色が強い選挙制度
───亡命チベット代表者議会の選挙は、出身地方ごとと宗派ごとに候補者を選ぶという方式ですね。
出身地ごとに3地方から10人ずつで30人、5宗派から2人ずつで10人、ヨーロッパから2人、アメリカ・カナダから1人です。
───インドに住んでいない他国のチベット人も全員投票できるんですか?
亡命政府のもとにいる18歳以上の世界中の誰でも投票でき、25歳から立候補できます。世界標準に照らし合わせても同じだと思います。
───投票はどのような方法で?
議員の投票は2回行われ、1回目の投票で、誰が選挙に立候補するかを推薦投票します。選出された人のうち、立候補の意思がある人が2回目の選挙に立候補します。チベット人はいい人すぎるので、自分で「やります! やります!」という人があまりいないんですよ(笑)。1次投票でも2次投票でも、有権者1人につき10人まで投票することができます。
───1回目の投票で推薦を決める時も、地方ごとでの投票なんですか?
すべて地方ごと、宗派ごとの投票です。ヨーロッパやアメリカの人は、地方・宗派に関係なく投票できますが、それ以外の有権者は、他地方・他宗派の立候補者に投票することはできません。私は、ここに問題があると思っています。
■最大の課題は、「政党なき民主主義」の改善
───出身地方を重視するのがチベット社会なら、地方ごとの投票でもいいのでは?
チベット社会には政党がありません。地方が政党のようなもので、首相のサムドン・リンポチェ氏はよく「パーティーレス・デモクラシー(政党なき民主主義)」と好意的に表現します。しかし地方ごとに自分たちの利益を主張しあう状況は好ましくない。政党があった方がより民主的だし、地方の利益のためではなく社会の問題として問題解決に努力している人が議員に選ばれるべきです。
チベット亡命社会には経済や教育の問題もありますが、私は特に選挙制度の問題を重視しています。
私は、チベット青年会議の議長時代、政府に政党選挙や2院制を提案しました。2院制は、上院で従来の、地方と宗派で議員を選ぶ制度を残し、下院は亡命社会全体から一定の人口比率で議員を選ぶという案でした。しかしチベット人社会の中では、ものすごく地方色が強く、地方ごとの投票を支持する人たちは、そのうち民衆が選ぶ下院の方が上院力を持つことを恐れた。そのため、2院制も達成できませんでした。
───今後もこうしたアイデアは主張していくんですか?
いまも若い世代はそれを主張し続けています。しかし、この亡命社会においては達成できそうもありません。もしチベットが独立や自治区を勝ち得て、自分たちでシステムを作り上げることができるとなれば、その方がチャンスが芽生えるかもしれません。しかしダライ・ラマ法王が「地方で区別するのはよくない」と言い続けているので、若い人たちの間では地方重視の考えは減ってきています。
外国人は、インタビューに来ると「チベットの民主主義は何点くらいですか?」と聞いてきます。私は、10点満点で6点だと答えています。しかし悲観的ではなく、これからどんどん良くしていくチャンスがあるので、期待できると思っています。
■「3月10日を忘れない」
───以前はたくさんあったという髪を剃ってしまった理由は?
87年にもラサで暴動があり、その際、中国政府がデモ参加者を見分けられるように坊主にさせたことにちなんでいます。当時のチベット自治区内の共産党トップが、胡錦濤・現国家主席です。2番目の理由は、今年の3月に亡くなった人たちへの追悼です。3つ目の理由もあります。チベット問題が解決するまで、毎月 10日に髪を剃って、中国がやっていることを忘れないようにするためです。
───議長が坊主頭をやめるのは、どういう状態になったときですか?
チベット問題をすぐに解決できるとは思いませんが、解決するとしたら、中国政府が自治区を提案してくるか、そうでなければ完全に独立を勝ち取るか。この2つの道しかないと思います。
(了)
(記者:藤倉 善郎)
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