ある日曜日、車好きのAさんが自宅のパソコンでヤフーのサイトを開くと、新車のミニバンの広告が現れた。同じ時間、株式投資に興味があるBさんが同じ画面を開くと、今度は投資信託の新商品の広告が出てきた。
これは、利用者がこれまでに訪れたサイトや検索したキーワードなどを分析し、一人一人の興味や関心に合った広告を配信する「行動ターゲティング」広告の一例だ。同じ時間に同じ画面を見ていても、出ている広告が違う——。そんなことが、今では当たり前になりつつある。
国内では、ヤフーが2006年1月に導入したのを機に広がり始めた。07年5月には、NECビッグローブとニフティ、アットネットホームの3社が提携するなど、各社が力を入れる。
背景には、高い広告効果がある。電通インタラクティブ・メディア局の杉浦友彦チーフ・コンサルタントは「不特定多数に向けた広告に比べ、関心のある分野の広告だから読んでもらえる確率が高まる。住宅などでは5倍近くになることもある」と話す。
07年に導入した全日本空輸は、沖縄に興味がある人に「沖縄に行こう」キャンペーンの広告を送るなどしており、閲読率が2倍強に上がった。WEB販売部の高柳直明主席部員は「限られた予算を効率的に活用できる」と評価する。
電通の07年媒体別広告費調査では、インターネットが前年比24・4%増の6003億円と、雑誌(4585億円)を2年連続で上回ったが、一人一人の好みに合わせたオーダーメード型広告が急成長の原動力ともみられている。
なぜ利用者の好みに合わせた広告ができるのか。
使われているのは、利用者識別のための「クッキー(Cookie)」と呼ばれる機能だ。利用者がクッキーを使ったサイトを開くたびに、パソコンから特定の信号が送られ、サイト側は「いつ、何回訪れたか」「どのページを見たか」などの情報を把握できる。より対象を絞り込んだ広告も発信可能だ。
クッキーは、利用者が自社サイトでどんな動きをしたのかという情報以外は読み取らないとされるが、知らない間に自分の趣味や関心のある分野などの個人情報が広告の発信に使われているには違いない。企業が広告効果重視に走り過ぎれば、個人情報保護がなおざりにされる懸念もある。
米国では00年、ネット広告大手ダブルクリックが、買収した会社の顧客データと行動履歴のデータを連携させようとしたため、消費者団体などから強い非難を浴びたことがある。
行き過ぎを防ぐため、米連邦取引委員会(FTC)は07年12月、行動ターゲティング広告などのために個人情報を取得する場合、情報を提供するかどうかを利用者に選択させるよう求める指針を発表した。
ネットの進歩は、個々の好みに合わせた広告の発信を可能にした。利用者にも悪い話ではないが、クッキーが利用拒否できるのと同様に、利用者が選べるようにすることが必要だ。ビジネスチャンスをどう育てていくのか、企業側の姿勢が問われている。
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