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2008年08月08日(金) 11時55分

「私、たぶん、今まで誰のことも好きになってない」〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 「人を好きになるって、どういうことなんでしょう」

 最近、女性たちからよく発せられる言葉だ。周りから見れば、恋人には不自由しない、むしろ「恋多き女」と思われている女性の口から、こういう言葉を聞かされることが多くて、こちらが驚いてしまう。

 「今、ふたりの男性とつきあっているんです。ひとりは、本当に私のことを大事にしてくれていて、何でも言うことを聞いてくれる。ただ、性的には非常に淡泊で、半同棲(どうせい)しているようなものなのに、3カ月くらいセックスしなくても彼は平気なんです。私はそれに耐えられなくて、元彼とまた会い始めてしまった。元彼にも、今は彼女がいるんだけど、ものすごくセックスが合うから、『こんなことしていてはいけないよね』と言いながらも会っちゃうんです」

 玲果さん(33歳・仮名)はそう言う。モテることを無意識にせよ自慢しているのかと最初は思ったのだが、彼女は本気で悩んでいた。 ふたまたをかけていることを苦しんでいるし、なぜ自分はこんなことをしているのかと自分を責めてもいる。

 「私、高校生のときから恋人が途切れたことがないんです。だから恋多き女なんて言われたりもするし、女友だちの彼と関係をもって、友だちを失ったこともある。褒められるとその気になっちゃう女っているでしょう? でも私はそうではないんです。実は私、たぶん、今まで誰のことも好きになってない。だから、セックスするくらい、私にとってはどうということではないんですよ」

 人を好きになるのが、どういうことかわからないと彼女は真顔で言った。

 その人のことを考えるとどきどきするとか、一緒にいないのに今ごろ何をしているんだろうと考えてしまうとか、彼のためなら何でもできると思えるとか……。会うとうれしくてたまらないとか。いろいろなことを言ってみても、彼女にはピンとこないようだ。

 「うーん。つきあった人たちは、みんなそれぞれいい人だったと思うし、それなりに楽しかったけど、会えないと悲しくなるとか、彼が自分をどう思っているのか不安になるとか、そういうふうに感じたことがないんです。会うとうれしくてたまらないというのも、よくわからない。会うのが嫌じゃないから会うんだけど、楽しく話してご飯を食べて、時には映画を見に行ったりして、セックスして。それが気持ちよければ、よかったーと思うだけなんです」

 「もちろん、ケンカしたくないから、いろいろ話し合っていい関係を作ろうとしてきたけど、それはどんな人間関係だって同じですよね。友だち関係と、恋愛との違いがわからない。だから私は、たぶん、人を好きになったことがないんです」

 どんなに抑えようと思っても、抑えきれない恋心、彼を自分だけのものにしたいと思う独占欲など、彼女は感じたことがないと言い切る。

 玲香さんだけではなく、ほかの女性たちからも、このところ似たような話が舞い込んでくる。いったい、どういう背景があるのか、まだ私にはわからない。

 ただ、30代になって、ふと過去を振り返ってみたら、「ああ、実は自分は誰をも好きになったことがないんだな」と気づくようになった、と彼女たちは口をそろえて言う。

 好きになるということがどういうことなのか。それがわからないのが、不幸なことかどうかは判断しにくい。恋に突っ走って取り返しのつかない傷を負う人もいるのだから、常に冷静でいられるのは、いいことかもしれない。

 だが、自分の中でとめどもなく、ある人への思いがあふれ、それが相手にも通じて、一瞬でも「深くわかりあえる」ときを経験できるのが恋の醍醐味(だいごみ)のひとつでもある。通常の人間関係より、もっと心の深いところでの結びつきを感じることができれば、人は何かが変わるのではないかと思う。

 「恋なんてしょせん、幻想と錯覚」かもしれない。それでもあえて、「人を好きになる」ことは、思っているよりずっとすてきなことだと個人的には感じている。

 「心から人を好きになってみたい。もしかしたら、今の私には、そういうことがとても必要なんじゃないか。最近、妙にそう思うんです」

 こうすればいい、というアドバイスなどできるはずもなく、私はきれいな玲香さんの顔を見つめているしかなかった。

(記者:亀山 早苗)

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