急成長するインターネットは、ビジネスの有り様も劇的に変えつつある。ネット以前の常識では考えられなかった売り込みが可能になった一方で、様々な課題も浮かび上がって来た。急成長の舞台裏を探る。
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カワイイーッ——。ファッション雑誌で活躍する人気モデルが色鮮やかなワンピースを着て登場すると、東京・渋谷の国立代々木競技場第一体育館は、若い女性の大歓声に包まれた。毎年春秋2回行われるファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」。売り物は、モデルの着ている服が即座に携帯電話の通信販売サイトにアップされ、ショーを見ながら買えることだ。今春は20歳前後の女性ら約2万2000人が詰めかけた。
「憧(あこが)れのモデルが着ていると店で服を見るよりかっこよく見える。盛り上がって衝動買いしちゃった」
都内の女子大学生(22)は興奮気味に話した。花柄のワンピースなど2点を買い、3万円以上使った。
仕組みは簡単だ。ショーで気に入った服があれば、その場で携帯サイトに接続しサイズや色などを確認、住所や氏名などを送信すると、「代金引き換え払い」などで商品が届く。ショーの臨場感や高揚感が来場者の購買意欲を刺激し、携帯からすぐ申し込める手軽さが購買行動を起こさせる。
TGCを運営するゼイヴェル(東京)は携帯電話を使った「モバイル通販」を手がけるIT(情報技術)企業だ。永谷亜矢子プロデューサーは「もともとはファッションと無縁だが、ネットを使えばビジネスとして活性化できると思った」と話す。TGCの1日で3500万円を売り上げる。
モバイル通販の伸びが著しい。市場調査会社の富士経済によると、2008年の販売額は03年の6倍近い3410億円となる見込みで、インターネット全体の通販市場(2兆5270億円)の7分の1に上る。
「携帯電話で買い物ができることで、消費者が何かを欲しいと感じてから買うまでの心理的、物理的なハードルが低くなった」
市場調査会社、エスプール・マーケティングの伊藤麻里・マーケティングディレクターが指摘する。gooリサーチの調査でも、モバイル通販を利用する理由は、「手軽」「いつでもどこでも利用できる」がそれぞれ半数を占めた。
都内の女性会社員(21)の自室には、おしゃれな服や靴があふれていた。会社員は昼休みや深夜、携帯片手に通販サイトを巡るのが日課だ。「かわいい商品を見つけると、つい買ってしまう」と言い、多い月は7〜8回、計5万円は買う。
ネット取引、とりわけモバイル通販は「欲しいと思ったら、すぐ注文できる」新しい買い物の世界を切り開いた。だが、その手軽さは両刃(もろは)の剣でもある。
経済産業省によると、モバイル通販を含めたネット取引に関する消費者相談は05年度が6295件で、01年度(1396件)から急増した。「イメージしていたものと違う商品が届いた」といったトラブルのほか、代金を支払ったのに商品が送られてこなかったケースもある。便利な道具をどう使うか、消費者にも見極める目が求められている。
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