2008年08月04日(月) 11時19分
五輪後、北京市民はどんな空気を吸い続けるか(オーマイニュース)
「ガスっていますね」、「視界が悪いですね」
これは、テレビ朝日の取材に対し、27日に北京入りした日本競泳陣が北京の大気の感想を聞かれた時のコメントである(28日、テレビ朝日・スーパーモーニング)。
これを裏付けるわけでもないだろうが、とんでもない報道が米国から舞い込んできた。米国五輪委は、北京の大気中の塵(ちり)や煤塵(ばいじん)から600人の国家代表選手を保護するため、選手にマスクを配ったというのだ。
米国がこのマスクを準備した背景には、それだけ米国が、北京の大気汚染が深刻だということを認識していることにほかならないが、そのほかにも、昨年、米国ボクシング選手が北京市内をジョギングした際に気管支炎を発症などの影響があったとされる。
これに対し、中国当局は、車両制限や汚染工場の閉鎖などにより北京の大気汚染は解消され、マスクを使用する必要はないと反論しているそうだ(23日付、韓国・中央日報の米国ウォールストリートジャーナル紙からの引用記事)。
この中国の反論を裏付けるように、北京五輪委は北京市内に入る車両を制限するために、20日から、車両ナンバーの末尾の奇数、偶数による車両の乗り入れ制限を始めた。これによって、五輪開催中の北京市内を走る車両数を半減させ、排ガスも63%減らす方針だという。
他方で、世界には、この交通規制、工場の操業停止などの対策や当局発表の大気汚染度の数値に懐疑的な見方もあるのも事実だ。象徴的なのは、北京市内の大気汚染を理由に五輪への不参加を明らかにしている、マラソンの世界記録保持者、ゲブレシラシエ選手(エチオピア)である。また、中国での大気汚染を嫌って、イギリス、オーストラリアなどの五輪チームのように、日本で五輪前の直前合宿を行う国も少なくない。
もしこのまま、開会式や五輪本番で、米国選手がこのマスクを着用したら一体どうなるだろうか。
おそらく、中国国民や中国政府が、世界の目の前で大恥をかかされたとして、米国に対して猛反発するのは、火を見るより明らかだ。過日、世界各地で見せた、聖火リレーに対する鬼気迫る愛国心が「鳥の巣」全体を覆い尽くす図が、容易に想像できる。また、フィールド内に居合わせた中国人と、マスクをした米国選手との衝突の可能性も排除できず、観客からの大罵声(ばせい)とあいまって開会式は騒乱状態と化すのではないか。
果たして米国は、中国の反発があることを承知の上で、マスクの着用を認めるのだろうか。
米国五輪委の今回の決定は、あくまで選手の健康を気遣っての医療的判断だと思われる。無論、この判断は、それ相応の科学的根拠があってのことで、情緒的なものではないはずだ。だが、中国の威信をかけた五輪だけに、メンツをつぶされた中国が黙ってこれを放置するとは思えない。侮辱された中国の態度次第では、五輪の開催はおろか、外交問題にまで発展する危険性がないとは言えない。
しかし、米国は、中国の猛反発に遭ったからといって、中途半端な政治的配慮で矛を収めないほうが良い。むしろマスクを着用しなければならない科学的根拠を示し、世界や中国の理解を得る努力をするべきである。その上で、堂々とマスクを着用すれば、中国の非難があったとしても怖くはないはずだ。
そしてこのデータの合理性、客観性が認められた場合、米国はもとより、中国国民に対しても利益があることになる。これによって、普段、北京市民が吸っている空気がどのくらいの程度のものなのか、そして、これまで中国政府が出していた「大本営発表的」データとの相違が、北京市民も理解できるはずだ。
中国国民は、開会式で受ける国際的侮辱と、正確な北京の大気汚染度の学習という利益のうち、どっちを選択するのであろうか。
(記者:藤原 文隆)
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