糸井 本を読んでいると、どこに連れて行かれるかわからず、目をつぶったまま手を引っ張られている感じがすると思うんですよ。日本語だから意味はわかるけれど、本に書いてある言葉って、読者が引っ張り出す作業が必要です。でも、音声って向こうからたどりついてくれるんですよ、耳まで。特にイヤホンで聴くと本当にいいです。
糸井 最終的には、無料にするのが目的です。CD集が売れたら、残りはタダでだれでも聞けるようにしたい。高速道路のように最初は有料でも償還後はタダにする計画で、お金を出してくれた人は「あなた方が後でお金のないひとがタダで聞けるようにしてくれた」と感謝される形になります。吉本隆明の“リナックス化”がそこから始まります。吉本さんの講演が百何十回分無料で聞けるって、実現できたらすごいことだと思います。世界中を探してもそんな人はいないでしょう。
糸井 発売を待っていてくれた人がいたのがはっきりわかりました。「ほぼ日」では、吉本さんの話がアクセス数でトップになったことがあります。例えば、吉本さんの教育についての話を「日本の子ども」というタイトルで連載したときもそうでした。
ユーザーの知的水準は、相当高い。吉本さんが誰であるかは別にして、ほかの受けを狙って出したものより、「日本の子ども」の方がアクセスが上になる。「本当に面白い」っていうものを、僕が真剣に伝えたら、ちゃんと人はついてくるってわかっているんです。
「ほぼ日」では、オリジナルグッズの値段が高くなってしまっても、「こういう商品がある」って平気でだしちゃう。普通安い商品には何か安い理由があるんです。逆に、高い商品には高いわけがあって、それなら高いまま出そうっていうのが僕のやり方です。
糸井 とりあえず10年間できたから、あと10年間はやるつもりでいます。父親が70歳になる前に亡くなっているので、70歳になってみたいんです。
これから、うちに定年後の人が入ってくると思います。僕と同じ体力があって、僕と同じ知識力があれば主戦力です。企業ってどこかで大事な人の遇し方を間違えている気がします。僕は昔より今の方がよっぽど仕事ができます。10年前と比べたら全然今の方が上。50歳のときと根本にあるセンスが変わってるんですよ。
10年後には、木造の社屋にすばらしい社員食堂があるっていうのが、僕の夢です。きょうのご飯はなんだろって社員が来て、仕事の打ち合わせより献立の話をしてる。時代はころころ変わりますから、読者や社員に逃げられないで、それが実現できたら最高ですね。(YOMIURI PC編集長 稲沢裕子)
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