2008年07月31日(木) 13時25分
外食産業全体が不調の中、意外なブームに賑わう回転寿司(ダイヤモンド・オンライン)
最近、商店街でちょっとした異変が起きている。「土、日曜日ともなれば、店が家族客で混み合い、30分待ちも珍しくない」(東京都練馬区の回転寿司店)と言うのだ。
現在、多くの回転寿司チェーンは、長らく続く過当競争に魚介類の仕入れ価格高騰が重なり、苦しんでいる。なにしろ、マグロ、カツオ、イワシなどあらゆるネタの価格が2〜5倍にハネ上がっているのだ。
そのため、「ベトナムやタイから名も知らぬ安い魚を買い付けて日本の魚名を付けてネタに使っている」「表で一皿100円と宣伝しながら中に入ると一貫100円の店が増えている」などという話もチラホラ聞こえてくる。
そんな回転寿司が、ここに来てなぜ盛況なのか。
実は、その背景には「相次ぐ値上げで外食需要が落ち込むなか、家族世帯が安い回転寿司に流れ込んでいる」(食品業界に詳しいアナリスト)という事情がある。よい例が、全国に「かっぱ寿司」を展開する業界最大手のカッパ・クリエイト。直近の3〜5月期は、売上高が対前年同期比約13%増、営業利益が同約46%増と大幅増収増益を達成した。
最近では、「一皿200〜500円」などの高級回転寿司も多いなか、ずっと「一皿100円(税込み105円)」という基本価格を貫いてきた営業努力の賜物だ。特に平日11時〜15時のランチタイムには業界で唯一となる「一皿94円キャンペーン」を行なっている。
強みは、最大手の人脈で、どんなネタでも安定して仕入れられるルートを握っていること。回転寿司業者の悩みは、5〜6割にも上る高い原価率だが、競合他社より数%も安く仕入れができるため、寿司を安く提供できる。
集客のための直営店の大改装も追い風になった。注文した寿司が、カッパが運転する列車の荷台に載って厨房からお客に直送される「特急レーン」の設置、指一本で間違いや遅滞なく注文ができる「タッチパネル」の導入などが子供にウケている。客足は改装前と比べて5〜10%も伸びたという。
同じく「無添くら寿司」を展開するくらコーポレーションも、「一皿100円」をウリにして集客策にも力を入れている。08年4月中間期の売上高は約18%増、営業利益は約11%増と絶好調だ。
しかし、追い風に乗っている回転寿司チェーンも油断はできない。たとえば、同じ回転寿司でも、「1皿100円台〜数百円台」と価格帯に幅がある回転寿司は、あまり振るわない。
「海鮮三崎港」などを運営する京樽の外食事業や、「すし銚子丸」を運営する銚子丸は、ガソリン価格高騰や天候不順などによる客足減、仕入れ価格上昇によるコスト増により、減収減益基調だ。「原価低減を徹底して安い皿を増やさないとお客は増えないだろう」とアナリストは指摘する。
寿司業界全体を見渡しても、業者を取り巻く環境は、日に日に厳しさを増している。安泰なのは、客単価が高く利益率が10%に近い銀座界隈の高級店など、ごく一部。特に回転寿司と客層が近く価格が割高な「町の寿司屋」は四苦八苦だ。「跡継ぎ不足で人手が足りず、年収は300万〜400万円がいいところ。市場での買い付け力が弱いため、高騰する魚をさらに高く掴まされてコストは増える一方」(練馬区の個人経営店)。
今後はコストを削りながらも、安い寿司を出せる業者しか勝ち残れない。回転寿司の好調は、そんな厳しい現状を浮き彫りにしているとも言える。
(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
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