日本将棋連盟が、社団法人になって29日に60年目を迎えた。その節目で公益法人改革にともなう組織改編を迫られている。陣頭指揮をとる米長邦雄会長(65)=永世棋聖=は、判断を誤れば「将棋連盟は消滅する」と不退転の決意で改革断行に臨む。また昨年、分裂・独立騒動が起きた女流棋士たちはどうなるのか、将棋界トップに改革案を聞いた。
公益法人制度改革によって、社団法人は、一般社団法人か、公益社団法人かを選択し、今年12月から5年以内に政府の認定を受けなければならない。
米長会長「公益法人になると税金面で優遇されたり財産も持てます。一般社団法人だと相当に厳しいので、どうしても公益でないと困るのです。公益とは特定の人だけのためでなく、広く国民のために役立つこと。プロ棋士のみが得をする、利益を享受する等は認められない」
米長会長は5月の棋士総会(会員199人)で、改革の方針を説明したが、プロ棋士たちの反応は鈍かった。
「事の重大さにまだ気が付いてない。社団法人は将棋のために尽力する人々の集まりなのです。しかしプロ棋士の多くは、4段に昇格すなわちプロ棋士、正会員になり、それは対局料や給料がもらえる『権利を得た』と思っている人が大半です。日本将棋連盟からお金をもらう権利があるのではない。社団法人に尽くすのが棋士の務めという新たな認識が求められます」
プロ棋士らの理解を得られなければ、どうなってしまうのか。
「将棋連盟は消滅するんですよ。改革は何も米長がやりたいわけじゃない。法律で定められてしまったわけだから、やらなければならない。法律通りにやれないとなると、消滅するしかない。今までの互助会的な発想ではだめだ」
ほかの行政改革のように“痛みの伴う”改革となると、プロ棋士の給料が減ったり、リストラということも…。
「収入は減るわけではない。給料として支払われているものをなくして、その同額を普及した見返りとして棋士の収入とする。対局で頑張り、普及活動をすれば棋士個人の収入はあまり変わらない。普及活動が増えれば、プロ棋士の数はむしろ増えるでしょう」
◇女流棋士問題
連盟の下部組織の女流棋士会の位置付けも微妙になる。昨年、女流棋士会から改革派が日本女子プロ将棋協会(LPSA)として独立したばかり。あらためてあの騒動は何だったのか。
「要求は3点でした。給料を出すこと。社会保険に加入させること(正会員しか資格がない)。棋士総会に出席させること。このような無いものねだりは理事会としてはお断りするよりありません。それが不満の人たちが飛び出し、今まで通りで良いという人が残った」
しかし、残った女流も、今回の法人改革で連盟から独立せざるを得ない状況にある。
「女流棋士会は一般社団法人の認定を目指します。独立した団体といっても、今まで通り友好的な関係には変わりありません。ただ対外的な名称、会計の独立が求められます。夫婦別姓というべきか。私個人は夫婦別姓は反対ですけどね」
女流棋士会が将棋連盟から独立することで、これまでの“ねじれ現象”も解消されるという。
「LPSAの中井広恵代表理事と、谷川治恵女流棋士会会長の2人を対等に位置づけする必要がある。今までは中井と米長が対等で問題でした」
独立を前にして、女流棋士会の船戸陽子女流2段が1日付でLPSAに移籍した。
「出て行くのは自由だし、また再入会したいという場合も条件をクリアすれば可能。これからは女流棋士会がどういうふうに結束を固めて、いい団体に成長していくかを静かに見守る立場です。第三者として、女流名人位戦などでいろんな提案ができるかもしれない」
◆公益法人制度改革 内閣官房行政改革推進事務局が、財政負担縮減のため、594の公益法人(社団法人、財団法人)の改革に着手。今年度中に新制度を施行する。従来通りの税制上の優遇を受ける公益(社団または財団)法人になるには、12月1日の施行から5年間の移行期間内に申請し、内閣総理大臣(または都道府県知事)から公益性の認定を受けなければならない。また、公益認定が不要の一般(社団または財団)法人は、登記のみで設立できるようになる。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20080730-OHT1T00099.htm