世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)閣僚会合が決裂し、農業交渉で劣勢だった日本は大幅な市場開放をかろうじて免れた。だが、自由化の圧力がやむわけではなく、食料自給率の向上を実現するには、国内農業の体質強化が不可欠になる。
一方、電機、自動車など国際競争力が高い日本の製造業は途上国などへ輸出を拡大する機会を逃し、国内の消費者も低価格の輸入農産品を手にできないデメリットがある。
▽改革の好機失う
日本は今回の交渉で、農産品への関税削減率を例外的に抑えられる「重要品目」の数を、全品目の8%以上にするように主張したが、同調する国はほとんどなく孤立。
最大6%にとどめた調停案通りに合意した場合、コンニャクや砂糖といった高関税品目の関税が大幅に引き下げられる恐れがあった。コメなど重要品目も義務的な最低輸入量の拡大など、国内農業への悪影響が懸念されていた。
交渉決裂で、高関税により国内産品を輸入品との競争から保護するシステムは維持された。しかし、みずほ総合研究所の
▽保護政策見直し
日本の農業従事者は六十五歳以上が六割と高齢化が進み、耕作放棄地も年々拡大。二〇〇六年度に39%に落ち込んだ食料自給率も低水準で推移している。
政府は農業経営効率化のため、やる気のある大規模農家などに助成を集中させたり、農地を借りやすくしたりする政策を掲げるが、反発も多く、順調には進んでいない。企業による農業参入を一層進めることも課題だ。
若林正俊農相は決裂後、「日本農業の体質を強化しなければならない」と強調。これまでの保護政策をどう見直すのかが問われる。
▽EPAは出遅れ
一方、鉱工業品分野で進展を期待していた産業界にとって、決裂は「自由貿易推進にとって大変残念」(日本貿易会)な結果に終わった。
調停案通りなら、30%を超えるインドやブラジルといった途上国の関税が大幅に下がるほか、先進国でも米国のトラック(25%)、欧州連合(EU)の家電(14%)などで引き下げが見込め、日本企業に追い風になる期待があったからだ。
今回の決裂により、世界では二国間などで自由貿易協定(FTA)を締結する動きが加速しそうだ。日本も経済連携協定(EPA)の締結を進めているが、これまでの締結相手はアジアが中心。農業国のオーストラリアなどとの交渉は難航しており、出遅れ感が目立っている。