2008年07月25日(金) 16時44分
【ストーカー判事初公判(10)完】裁判官辞職の意向 「育ててくれた裁判所を裏切り…」と謝罪(産経新聞)
《現職の裁判官がなぜストーカーという犯罪を犯したのか。最終弁論で弁護人は、罪になるとわかっていながら身動きが取れなくなっていった下山被告の様子を明らかにしていく》
「被害者がストーカーメールを相談してきたことは、下山被告にとってプライドをくすぐるもので、メールをやめることができなくなった。それが犯罪に該当することがわかっていて、いつやめるか悩んでいた。被害者はストーカーメールを相談しつつも発信者ではないかと疑い、直接、下山被告に尋ねた。下山被告は今やめれば自分だとわかってしまうとやめるタイミングを失い、焦りの中で身動きが取れなくなった」
「頼れる支部長でありたいとの思いから、警告メールを送り、無言電話を警察に相談するよう言うなど、『(犯人は)怖じ気づいてやめた』と言えるようにした。そして、終わらせる宣言とも取れる最後のメールを送った。この時点でメールを送り続けるつもりはなかった」
「下山被告がストーカー規制法に基づく警告を受けなかったのは、今後、ストーカーメールを送る危険がないと思われたから。自らの意志でストーカーメールをやめたのも事実だ。相談に乗って味方を装ったことで、被害者が味わった人間不信の思いは察するに余りあるが、自らメールを収束させ、無言電話は関知していない」
《弁護人はさらに、被害者が県警に告訴する前に、下山被告が自分の犯行であると打ち明けた行為が自首に当たると主張した》
「告訴前の4月8日には被害者に犯行を告白し、謝罪した。同日、県警本部の担当にも打ち明けようと電話をしたが、不在。翌日、『週末に時間を取ってくれないか』と言ったが連絡が来ず、翌々日に再度電話したが事情聴取の申し出は断られた。被告は当初よりメールを発信した事実を認めていて、これは自首に当たる。被害者に『つかまりますよ?』と言われたときも、『覚悟している』と答えている」
《逮捕されてから、「恋愛感情ではなかった」と否認していたと伝えられた下山被告だが、弁護人は取り調べの中で、徐々に下山被告が自分の気持ちに向き合うようになったと主張した》
「恋愛感情についても、当初は否定していたが、拘束中に弁護人との面会を重ね、自分の生きざまが問われていると言われ、被害者への恋愛感情を認め、率直に反省している。また、メールの送信場所なども、自発的に申告している」
《弁護人は最後に、下山被告が裁判官を辞める意向でいることを明らかにし、反省の態度を前面に出した》
「裁判官の職についても、4月10日に宇都宮地裁所長に、5月に東京高裁事務局長に口頭で辞職の意を伝えている。被害者にも、告訴前に自らのストーカー行為を伝え謝罪しているほか、告訴後は弁護人を介し謝罪文を渡し、再三示談の申し入れをしている。実弟や妻も謝罪の手紙を出しており、示談の準備を整えている。かつての勤務地、都留支部にも被害者を気づかってほしいと手紙を送っている。約2カ月、身柄拘束され、刑罰を事実上受けている」
「下山被告は努力家で、困っている人を助けたいと裁判官になった。裁判中の居眠りも、睡眠障害という病気が原因だ。以上のように、下山被告は約2カ月の身柄拘束で、形だけのプライドを捨て、反省を深めた。示談は成立していないとはいえ、慰謝に応じる姿勢はあり、厳しい社会的制裁を受けており、弾劾裁判も控えている。執行猶予付き判決が相当と考える」
《弁護人が読み上げを終えると、渡辺康裁判長が下山被告に「最後に何か言いたいことはないですか」と声を掛けた。下山被告は立ち上がり、証言台でかつて自分が座っていた席をまっすぐ見つめ、反省の気持ちを口にした》
「被害者に申し訳ないことをしました。また司法に対する国民の信頼を損ね、私を育ててくれた裁判所を裏切り、申し訳ありませんでした。以上です」
《抑揚のない小さな声。法の番人は、自ら犯した罪を認め、謝罪した。判決公判は8月8日午前10時に開廷する》
《初公判を終えた下山被告は、午後1時前に甲府地裁から出ると、報道陣に囲まれ、もみくちゃにされた。うつむき加減で口を固く閉ざし、「自分が裁かれる立場になったことをどう思うか」などの報道陣の問いかけには一切答えず、弁護人が用意した車の後部座席に乗り込むと、乱暴にドアを閉めた》
(完)
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