2008年07月25日(金) 09時01分
<子どもとゲーム>(4)終わりなき仮想に夢中 オンラインゲームで「廃人」も(毎日新聞)
難民キャンプの子どものように、か細い足だった。トイレに向かう高校生の長男の後ろ姿に、母は息をのんだ。部屋にこもり、ネット上で複数の人が同時参加するオンラインゲームを一日中続ける生活を始めてから1年が過ぎていた。家族と食事もとらなくなり、自室でパンをかじるだけ。「おなかすかない?」。恐る恐る呼びかけても返事はなかった。
長男は不登校で約3年ひきこもった。19歳になった今振り返る。「歯も磨かず、風呂にもほとんど入らなかった。冬は指がしもやけになり、キーボードをたたくと痛かった」
寝食も忘れオンラインゲームにのめり込む10〜20代の若者が増えている。日常生活が送れなくなると「廃人」と呼ばれる。
不登校の相談を受けるNPO法人「教育研究所」(横浜市)。ここ数年、ゲームがからんだ不登校が目立つ。牟田武生理事長は「特にオンラインゲームは、匿名の世界で仲間意識をはぐくめる居心地のよい空間で、抜け出せずに不登校が長期化するケースが多い。不登校は情緒の不安定な子に多いのが定説だったが、ゲームが高性能化して面白くなり、そうではない子が不登校になっている」と指摘する。
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なぜそんなにオンラインゲームに夢中になるのか。仲間と武器を集め、モンスターを倒し、宝物を手に入れる。「普通のゲームと違い、終わりがない。経験がないと倒せない敵や何百回も挑戦して開く宝箱がある」。大阪商業大アミューズメント産業研究所の松村政樹副所長は指摘する。
家庭環境をきっかけに不登校になり、4年間オンラインゲーム漬けの生活を送った少年(18)は「いつも4人の仲間と行動していた。顔を合わせないので素のままの自分が出せて楽だった」と言う。
「強くなれば尊敬された。あいつと一緒だったら倒せる、と言われうれしかった」。埼玉県の私立大生(22)は、高校1年の時に不登校気味になった。自己実現の場となったゲームだが、やめると強い不安に襲われ、寝るのも怖くてやり続けた。
5カ月後、友達から何度も誘われて合唱部に参加、部活が楽しくなって学校に戻れた。「リアルな世界で必要とされれば、ゲームを手放せる」。教員を目指し勉強中の今、そう実感している。
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首都圏の国立大のある理工系学科では5年前から、授業に出ずオンラインゲームにのめり込む学生が現れた。ゲームに没頭したことによる留年者が毎年5、6人はいる。
別の国立大の男子学生(21)もゲームに夢中で留年が続く。1人暮らしの部屋は荒れ放題で、ガスも止められた。保健所、大学、精神科医、民生委員……。母親が相談に回ったが解決法は見つからない。「ゲーム依存が病気だと理解されず、説明するだけで疲れました」
韓国と中国では、長時間プレーした末に突然死する若者も出た。韓国では国が若者向け相談所を作り、ネット依存対策に取り組む。日本では約500万人とされるプレーヤーのうち「廃人」がどれほどいるのか、公的な調査すらない。=つづく
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