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2008年07月25日(金) 23時38分

【八王子通り魔】不可解な親子関係 動機には多くの謎産経新聞

 「親の顔を見たくなかった」。東京都八王子市の書店で女性2人が殺傷された事件で、逮捕された菅野(かんの)昭一容疑者(33)は警視庁の調べに、両親への強い不信感を述べている。職場での人間関係の悩みを聞いてもらえず、実家を出てホテルなどを転々としたことも、それを裏付ける。一方、親に依存しながら、ひとり暮らしをした際に住所さえ伝えないという不可解な親子関係も浮かび上がる。動機の解明には、多く謎が残されている。
 ■唯一の理解者
 内向的でおとなしく、幼いころから「友人は1人もいなかった」(知人)とされる菅野容疑者。唯一の理解者は家族だった。
 中学から不登校で、高校は1度も登校せずに退学。不登校時に担任が家庭訪問に来ても、母親は「教育テレビを見ているから大丈夫」と必死にかばった。父親も、菅野容疑者がけがで入院した後、会社に報告する際に付き添っていた。最近まで両親から金を借りることもあった。
 ところが、事件前には不信感を募らせた。
 供述などによると、事件2〜3週間前に職場の悩みを打ち明けたが、聞いてもらえなかった。それがきっかけで、「(親の)顔が見たくない」と、事件1週間前に家を出て、八王子市の旅館やビジネスホテルを転々とした。
 「両親を困らせるため、大きな事件を起こそうと思った」。直接の動機をこう供述しているが、父親は「(悩みの)相談を受けたことはない」と否定する。
 父親によると、菅野容疑者は7年前に「彼女と一緒になる」とひとり暮らしを始めたが、親に紹介せず、住んでいる場所さえ教えなかった。「事件の背景に家族関係があるようだが、家庭環境がつかみにくい」と捜査員は首をひねる。
 ■職場復帰願望
 「8月末からでも働けます」。事件の1週間前、菅野容疑者は八王子市の板金・加工会社を訪れ、焦らなくてもいいと勧める幹部に職場復帰へ意欲をみせていた。
 派遣社員で職を転々とする日々を送っていたが、今年5月、この会社に就職、正社員への道が開けた。
 就職から1週間後、菅野容疑者はプレス機に指を挟まれ骨折して休業。試用期間も延びた。以前もけがで正社員になれないことがあったという。会社幹部は「けがが事件へと走らせたのか。もっと話を聞いてやればよかった」と話す。
 だが、逮捕後の菅野容疑者は、調べに「職場での人間関係に悩んでいた」。一日も早い復帰を望んでいた態度とのギャップは大きい。さらに「1週間働いただけで人間関係がこじれるのか」(捜査幹部)との疑問も残る。
 ■閉店に焦る?
 事件当日の行動にも謎は多い。菅野容疑者は22日にいったん自宅に戻り、昼ごろ現場に向かった。約8キロを歩き、現場付近に犯行の約6時間前に到着。包丁を購入し、ケースをトイレに捨ててリュックからすぐに取り出せるように準備したが、「休憩したり、うろうろしていた」。
 事件約1時間前の午後8時半ごろ、書店のあるビルに入り、店内などを歩き回った。「遅くまでやっていることも閉店時間も知っていた」。ためらったあげく、午後10時の閉店時間が迫り、焦って犯行に踏み切った可能性がある。
 だが、犯行を決意すると一転。「視界に入った人を刺した」。2人を刺し、店員や客が逃げ、無人になるまで店内にとどまった。
 今は犯行を悔いているという菅野容疑者だが、「包丁を買った時間もはっきりせず、供述が二転三転する部分も多い」(捜査幹部)という。

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