四国・吉野川上流の高知県大豊町。人口約5300人の町は、65歳以上の高齢者が5割以上を占める。険しい山に囲まれた場所が多いため、共同アンテナを立てた共聴施設を利用する世帯は約1000世帯と、町の半数近くにも上る。共聴施設をデジタル化するには数十〜数百万円かかり、町などの補助を受けても1世帯当たり、最大で3万5000円の負担が必要になる。
6月下旬、43世帯が加わる共聴組合の代表・小笠原文男さん(59)が、施設のデジタル改修の賛否を組合員に聞いた。反対の手は挙がらず、共聴施設の改修が決まった。
小笠原さんたちの地域には特別な事情がある。一番近いテレビ中継局がデジタル化されれば、共聴施設が不要になる可能性がある。しかし、地元民放3局がいつデジタル化するのか、町にははっきり伝えられていない。小笠原さんは「改修は無駄になるかもしれないが、確実に受信したい。ほかに娯楽がある都会と違って、テレビはお年寄りの生活の一部ですから」と話す。
地方では、地元テレビ局も地デジの負担にあえいでいる。
群馬県藤岡市の山間部。新井和三さん(76)が組合長を務める共聴組合(1110世帯)では、先月、各戸にデジタルアンテナを立てることを決めた。来年にも、在京キー局が近くにデジタル中継局を設置することが決まったからだ。
だが、独立UHF局・群馬テレビは、資金難から、5000〜8000万円かかる中継局設置のめどが立たず、このままでは見られなくなる。新井さんは「夏は高校野球県大会や地元の祭りも放送される。できれば見たいが、仕方ない」と言う。群馬テレビの佐藤健一技術局長は「自力では難しいが、国や自治体にお願いしてなんとか中継局を設置したい」と強調する。
群馬テレビは3年連続赤字で、番組のハイビジョン化率もまだ1割ほど。中継局整備は、自治体頼みなのが実情だ。
総務省によると、辺地で共聴施設を利用しているのは全国で約140万世帯。多くは山間部だが、こうした地域に電波を届ける地方局は、デジタル化に伴う設備投資の負担に加え、長引く広告不況に苦しんでいる。
高知放送の相沢俊夫常務は「県民に“おらが放送局”として親しまれているからこそ、苦しくてもいい番組を届けなければと頑張っている。でも、企業だから株主も無視できない」と言う。地方局は、公共性と企業論理の間で揺れている。
(この連載は、文化部の森重達裕、小林佑基、清岡央が担当しました)