2008年07月23日(水) 12時21分
<八王子殺傷>「死んじゃだめ」 斉木さん一時手上げ力尽き(毎日新聞)
「誰でもよかった」。22日夜、東京都八王子市の京王八王子駅ビルの書店で起きた刺殺事件で緊急逮捕された菅野昭一容疑者(33)はそう供述した。6月の秋葉原17人殺傷事件の記憶が消えない中、若い命がまた凶刃の犠牲になった。
午後10時の閉店が30分後に迫っていた。
啓文堂書店でエプロン姿で本の整理をしていたアルバイト店員、斉木愛(まな)さん(22)=中央大学4年=は、文化包丁を持った菅野容疑者にいきなり左胸をひと突きされ床に倒れ込んだ。エレベーター近くの棚と棚の間。斉木さんのそばで本を選んでいた女性客(21)にも襲いかかり、左胸や腕など3カ所を刺した。
「しっかりしろ」「死んじゃだめだ」。店長と書店スタッフの励ましに最初は手を上げて応じた斉木さんだったが、やがて反応がなくなり、午後10時31分、病院で死亡が確認された。
菅野容疑者はエレベーター付近で包丁を放り投げ、1階まで降りた。雑貨店などが入る8階は既に閉店していたが、10階の飲食店はまだ営業中だった。
◇斉木さん 西洋史専攻で明るい人柄
中央大によると、斉木さんは文学部史学科で西洋史学を専攻。3年から始まったゼミでは、ヨーロッパ中世史を選択していた。非常に熱心で、まとめ役を務めていた。西洋史学担当の見市雅俊教授は「大学として、とても憤りを感じる事件だ」と話した。
ゼミで斉木さんの卒業論文を指導していた杉崎泰一郎・文学部教授が中央大学で23日正午から会見した。
杉崎教授によると、斉木さんは「西洋の昔話が好きだから」という理由で西洋史を専攻した。空想力が豊かで一角獣という空想の動物が、どのようにアジアから欧州に伝わり、人々に信じられるようになったかをテーマに卒業論文を執筆していた。3年生の時からゼミは皆勤で、いつも最前列で質問するなど盛り上げ役だった。
杉崎教授の元には事件後、ゼミ生から「友だちとして何ができるだろうか」というメールが相次いで届いている。八王子署で斉木さんの母親と会った際、母親は「お世話になりました」と涙を見せず気丈に頭を下げたという。
斉木さんが住んでいたアパートの大家らによると、いつもきちんとあいさつするまじめな学生だった。こまめに布団を干す姿もよく見かけた。音楽鑑賞が趣味で、特にロック系の音楽が好きだった。書店でのアルバイトについては「駅から近いからいい」と話していたという。
就職先も内定し、斉木さんの母親もとても喜んでいたという。その矢先の突然の悲劇に大家の女性は「あんないい子がこんなことになって。昨晩は一睡もできなかった。今も信じられない」と肩を落とした。
同じアパートに住む会社員の女性(41)は「短髪でボーイッシュな子。とてもおしゃれで、どのブランドを着ているのか気になるほどだった」と振り返った。【町田徳丈、内橋寿明】
◇宇都宮の出身2年前から書店でバイト
啓文堂書店の運営会社によると、斉木さんは約2年前からアルバイトしていた。栃木県出身で、県立宇都宮中央女子高を04年3月に卒業し、中央大学に入学した。同女子高の小野敏夫教頭によると、「在学当時の斎木さんは成績が優秀で、人柄は明るくて誠実、責任感が強く、友人間での信望も厚い生徒だった」という。
斉木さんが通った宇都宮市立陽東中で2、3年時に担任だった佐藤秀之教諭によると、斉木さんは合唱部に所属し、「思いやりのある穏やかで素直な子で、男女を問わずクラスメートに愛されていた」という。
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報道特集:秋葉原通り魔事件
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080723-00000033-mai-soci