2008年07月19日(土) 18時15分
「入社10年は泥のように働け」 IT業界はみんなそうなのか(J-CASTニュース)
「IT土方」なんて言葉があるぐらい、IT企業の仕事は「ハードワーク」という印象が強い。そんなところに、「入社10年は泥のように働け」といった言葉が業界関係者の口から飛び出し、インターネット上でも賛否両論の意見で盛り上がっている。IT企業ではやはり「泥のように働かされる」のか?
■「発想そのものが時代遅れの発言のように思います」
国内のIT戦略を支援する情報処理推進機構(IPA)の西垣浩司理事長は2008年5月28日に行われたIT業界イベントのなかで、伊藤忠商事の丹羽宇一郎取締役会長の「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」という言葉を取り上げた。学生も参加したこのイベントでの西垣氏の発言を、ネットメディアの「@IT」の記事「『10年は泥のように働け』『無理です』——今年も学生と経営者が討論」はこんな風に書いている。
「(西垣氏は)『仕事をするときには時間軸を考えてほしい。プログラマーからエンジニア、プロジェクトマネージャになっていく中で、仕事というのは少しずつ見えてくるものだ』と説明。これを受けて、田口氏(司会のインプレスR&Dの田口潤氏)が学生に『10年は泥のように働けます、という人は』と挙手を求めたところ、手を挙げた学生は1人もいなかった」
「10年間泥のように働け」という言葉はインターネット上で大きな反響を呼び、ブログでは様々な意見が書き込まれた。
「発想そのものが時代遅れの発言のように思います」
「マシな事を言っている気がする。大企業が考えている事と学生が考えている事の差がハッキリと出ていたかなと思う」
「その10年後を担保するニュアンスを含んでいたからこそ、みんな了承していたいたんじゃないだろうか」
経済学者の池田信夫氏もこの発言について自身のブログで取り上げ、「若いときは『雑巾がけ』で会社にご奉公し、年をとってから楽なマネジメントで取り返すという徒弟修業型のキャリアパスは、組織が永遠に不変で、自分がそこに定年まで終身雇用で勤務するという前提でのみ成り立つインセンティブ・システムである」と指摘、「ムラ的発想」だと批判している。
IPAの広報担当者はJ-CASTニュースに対し、「10年は泥のように働け」という発言は事実だったものの「一般的に仕事には下積みという部分があり、勉強して吸収しなくてはいけないというニュアンスだった」と説明。西垣氏も報道について「本意ではない」と話しているのだという。しかし、IT業界の現状と「泥のように働く」という一般的イメージが重なり、大反響を呼んでしまったようだ。
ちなみに「@IT」の08年7月14日の記事「『IT企業はほんとに泥のように働かされるのか』——東大でイベント」によれば、東大で開かれたこのイベントに参加したIT企業関係者には「IT業界は泥のように働かされるかというと、そんなことはない」という印象を持つ回答が多かったという。
■「自殺がありました」。こんな告白はしょっちゅうある
「プログラマーの人材募集に誰も応募してこない。人材派遣会社に聞いてみたら、やっぱりこの仕事のイメージが悪いようだ。他の会社もみんな欲しがっているのにもかかわらず、だれもプログラマーになろうとしない…」
こう嘆くのはあるIT企業の会社員。IT関連の業務は「ハードワーク」というイメージがつきまとっているのは事実のようだ。IT業界の人材不足を受け、IPAが実施した調査結果(08年1月発表)によれば、新卒採用の課題として「IT業界というだけで、仕事のイメージが良くない」と回答したIT企業が46.5%もあり、深刻な課題であることを示している。
自身も「泥のように働いた」というあるプログラマーは、
「小さな会社になればなるほど仕事はきつい。IT企業は合理的だと思われているのかもしれないが、『IT土方』って言葉があるくらい、システム関係は単純作業が多い。前の会社ではうつ病になった人もいた」
と打ち明ける。
08年1月には大手IT企業のプログラマーだった男性がうつ病を発症し、「過労自殺」であるとして労災が認められるというケースもあった。「IT企業に勤めています…自殺がありました」。実際、インターネット上ではこんな告白があるほど、IT企業での「ハードワーク」が話題になっている。「泥のように働く」かどうかは企業によるだろうが、深刻な状況におかれたエンジニアが多くいるのは確かなようだ。
ある上場IT企業の創業者は別の点を指摘する。
「泥のように働けといっても、対価次第でしょう。株式公開したら1000万円手に入ります、では24時間働くやつはいないけど、これが1億円、2億円だったら違うと思いますよ」
もっとも、最近は株式市場が低迷して、株式公開の数が減り、従業員が手にするお金の額も少なくなるばかり。となると、「泥のように働く」人も減っているかもしれない。
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