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2008年07月19日(土) 10時00分

【トレンド】宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』がいよいよ公開!! 新境地となった「海」と「母親」の描かれ方とは?nikkei TRENDYnet

 7月19日、『ハウルの動く城』以来4年ぶりとなる、宮崎駿監督の新作『崖の上のポニョ』が公開される。

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 『崖の上のポニョ』は、その内容に関係なく、「宮崎アニメ」の持つブランド力だけでヒットが約束されている、いわば「安全パイ」と言える作品である。だが、そこは妥協を許さない宮崎駿だけあって、手軽なヒットを狙ったアニメ作品とは一線を画する。67歳にして彼の新境地を見せつける作品に仕上がっている。

 アンデルセンの童話「人魚姫」を下敷きに、時代を現代に置き換え、離島に暮らす5歳の少年・宗介と、“人間になりたい”と願う金魚のポニョの愛と冒険を中心にした物語。

 離島が舞台だけあって、今作は「海」を重要なモチーフとしている。「山」や「森」、そして「風」を主要なモチーフとしてきた宮崎駿の新境地がここに見出せる。

 すべてが手書きという、特筆すべき造形力によって描かれた「海」の様子は、観る者に少なからず衝撃を与える。穏やかなときは、優しく、多様な生命が息づく箱庭として描かれるが、嵐のときは、激しくのたうち、叫ぶ様にすべてを飲み込んでいく破壊者として描かれている。状況に応じて様々に変化する海の光景から、実際に生きているかのように錯覚するだろう。

 「誰もが意識下深くに持つ内なる海と、波立つ外なる海洋が通じ合う。そのために、空間をデフォルメし、絵柄を大胆にデフォルメして、海を背景ではなく主要な登場人物としてアニメートする」と宮崎駿自身語っているように、今作では海は単なる背景ではなく、主要な登場人物の1人とされている。彼がそこまで「海」にこだわった理由はなんだったのか。それを解くには「母親」もキーワードとなってくる。

 宮崎駿はこれまで何度も“子供の成長“をテーマにしてきたが、それはあくまで“子供が親離れをして成長するためにはどうするべきか”を提示していた。『千と千尋の神隠し』(2001年)や『魔女の宅急便』(1989年)といった作品には、そのテーマがはっきりと見出せる。

 『崖の上のポニョ』も同じような題材ではあるが、過去の作品と違うのは「子供の成長を見守る存在」としての母親の姿だ。特に宗介とポニョのそれぞれの母親は重要なモチーフとして扱われている。

 “成長するためには冒険しなくてはいけない“というのがこれまでの宮崎駿作品であったとするならば、今作は、“冒険するには、いざというときに守ってくれる母親の存在が必要”というような形に問題意識がシフトしている。宗介と母親。ポニョと母親。いずれの関係も愛に満ち、子供を優しく包み込んでいる。後ろで見守る母の存在があってこそ、彼らは危険な冒険に繰り出すことができるとしている。

 宮崎駿が「海」にこだわった理由はずばりここにある。常に我々を見守る“母のような存在“として「海」を描いているのだ。そして「海」を用いて、母の重要性を表現している。宗介が暮らす場所が離島に設定されているのも、四方が海に囲まれることで“包まれている”感じを明確に示すためであろう。

 海を描き、母と子という人類に普遍の問題を取り上げ、宮崎アニメの新境地を見せた本作だが、母と子の理想的な関係を追求するあまり、愛に溢れたおとぎ話に見えてしまうきらいもある。「理想的な関係でない子はどうしたらいいのか?」といった問題は脇に置かれてしまっているのだ。

 子供向け、または家族向けとして見るなら、これでも十分だと思えるが、国民的アニメである宮崎アニメでは、大人の反応も興行収入に多大な影響を与える。それによっては150億〜200億円という期待された大ヒットとはいかないかも知れない。大人の観客が今作をどう観るのか、公開後の動向に注目が集まる。

(文/小山田裕哉)



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