2008年07月17日(木) 20時33分
洞爺湖サミット期間中に経験した東京の異空間(オーマイニュース)
「そんなことをしていると、職務質問されちゃうよ」
というのが、7月上旬の洞爺湖サミットの会期中、記者のまわりで流行ったブラックジョークであった。
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知人の美術家が、イベントで使った等身大の怪獣作品を自宅にもって帰らなくてはならなくなった時も「東京は、いまサミットで警戒中なんだし、背負っている大きな包みから角とか尻尾とかが見えたら、絶対に怪しまれて警察に通報されるよ」とまわりから揶揄(やゆ)されていた。
しかし、この手の話は、あながち笑い話ではない。
読売新聞によると、7月3日の夜「電車のなかに包丁を持った男がいる」と110番通報があった。料理人が自分の包丁を新聞紙に包んで紙袋に入れていたのを乗客に目撃されて通報されたらしい。勤務先を確認できたために、銃刀法違反にもあたらず釈放されたが、サミットの厳戒態勢中だったこともあり、騒ぎになったようだった。
テロに狙われるのは、北海道ではなくて、東京のドコソコだ、などと煽る話もあった。それもあり、都内のロッカーが使えなかったり、検問や持物検査をされても記者のまわりに限っては「サミットの時期だから仕方ない、誤解されないように気をつけよう」という雰囲気だった。
■見ること/見られること
サミット開幕直前に、森美術館で「英国美術の現在史 ターナー賞の歩み」展を観にいった。この時期に、ターナー賞受賞者の現代アート作品が観られたことは、かなり意味深く、面白かった。
とくに気になったのは、ジリアン・ウェアリングの「60分間の沈黙」と題された作品だ。ジリアンの作品は、一般市民を巻き込むドキュメンタリー作品が多い。
この作品は、警察官たちに60分間カメラの前でじっとすることだけを告げ、集合写真のように並んでもらい、その様子を固定カメラで撮った映像作品だった。最初、見ていると制服を着た警察官たちの静止している姿は、記念写真のように見える。
しかし、数分経つと、警察官たちは、じっとしていられなくなりふらふらと動いたり、表情が変化していったり、こっそりと鼻をかみだしたりする。当事者たちがまじめな分、おかしみがこみ上げてくる作品だ。
また、この作品を見ている鑑賞者も、この警察官たちが最後どうなるのかを見届けたいために、いつ終わるか分からない映像を辛抱強く見る。スクリーンを境に互いに我慢比べをしているような、不思議な関係性の生まれる作品でもあった。
この作品を見ているうちに、まるでサミットの厳戒態勢中の東京に似ていると思ってしまった。
記者は、都内で警察官のいろんな姿を見た。立っているのが疲れて屈伸をしている人、あくびをしている人、楽しそうに仲間と談笑している人、深夜、勤務をおえて宿泊施設に移動するのか、大きなボストンバックをしょって歩いている人など、いつもは見ない警察官の姿を多く見た。
警察官だって人間だ、長時間の警備は大変だろうし、見られているという感覚も麻痺してくる。それを見ている私たちと、実は見られていた私たちの日常のいつもと違う異空間が東京にはあった。
普段、街を歩いているときは「見る/見られる」という意識のスイッチは、オフにしている。とくに東京だと、隣にどんな人が住んでいるのかも知らないくらいで、まわりとの関係性は希薄だ。
けれど、このサミット期間中は、「見る/見られる」という行為を意識した。
北海道のような市民団体と警察の衝突場面は目撃しなかったものの、東京には2万人の警察官が集結したそうで、東京も東京なりに非日常モードだった。
洞爺湖サミットが終わり、G8の意義が問われている。ただ、記者の一番の興味は、「一般市民の心に何が残ったのか」ということだった。
もちろんサミットと各個人との関係性によっても違ってくるだろう。
都内に住む記者のまわりの人たちに質問をすると、一番多かった答えは「ある日、忽然と消えていた警察官たち」だった。
(記者:大鳥 かな子)
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