2008年07月10日(木) 12時18分
地震と大豆の明暗分ける好天(オーマイニュース)
「ああ、今日も雨が降らないのか……」
これは、農業を営むAさんが、空を見上げながら、最近、毎朝のようにつぶやく言葉だ。
宮城県地方は、6月19日に梅雨入りしたものの、その後、雨らしい雨は降らずからから天気が続いている。6月に入って雨が降ったのは、たった2日だけで、それも終日降り通しの雨ではなく、翌日には雨が降った形跡が分からなくなる程度のものだった。
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この異常なくらいの少雨状態は、決して梅雨とは呼べるものではない。どちらかというと干ばつに近い。冒頭の言葉を吐いたAさんは、宮城県登米市で大豆を生産している農家だ。
宮城県は北海道に次いで大豆の生産が盛んなところだが、その中でも登米市は、県内トップクラスの大豆の生産量を誇っている。今年も、田植えの終わった5月下旬から、大豆の種まき作業が始まった。作業は好天に恵まれ、6月中旬にはほとんどの圃場(ほじょう)で終了した。例年だと、雨の合間を縫っての種まき作業となるのだが、今年は雨に邪魔されることがほとんどなく、作業は驚くほど順調に行われた。
■好事魔多し……か?
大豆は、早くまいても、遅くまいてもほぼ同じ時期に花を付けるという習性がある。このため、大豆は早まきするほど収穫量が多くなる。早くまくと、大きな体を作ることができ、大きな体には多くの大豆を着けることができるのだ。その意味で、6月中にまき終わったということは、今年の豊作がほぼ間違いなく約束されたと言っていい。
だが好事魔多しということなのか。順調に種まき作業は終わったのだが、肝心の大豆の発芽率が極端に悪いのだ。種まき後も、あまりに好天が続いたため、土壌が乾き、大豆の発芽に必要な水分が不足したことが原因だ。
大豆ならず、植物が発芽するためには、適当な温度と水分が欠かせない。一般的に大豆は、種まき後1週間ほどで発芽がそろう。もちろん、この間、十分な水分が供給されることが条件だ。
例年だと、この時期は4日に1日ぐらいの頻度で雨が降り、土壌中には発芽に必要な水分が十分確保され、人為的に水を補うことはほとんどありえない。だが、今年の種まき前後の異常なほどの好天が、大豆圃場のほとんどの水分を奪い去ってしまったのだ。
Aさんは発芽率低下というこの事態に、大豆のまき直しも視野に入れている。が、それも簡単ではない。まき直しをするにしても、耕起、砕土などのトラクターでの作業は、高騰した燃料費など、新たな出費を生むことになる。さらに、適期を過ぎたこれからの種まきでは、収穫量の低下は避けられない。
このように、まき直しによる新たな経費と減収を考えると、早計にまき直しという判断もつきにくいのが現実だ。今は、ただ、雨が降ることを祈るしかすべのないAさんだ。
多くの農業は自然を相手に営まれている。自然が人間に対し恵みだけを提供すれば問題はないのだが、時には今回のような事態に襲われることもある。
その自然の猛威といえば、岩手、宮城両県では、先の地震で大きな被害を受けたばかりだ。
Aさんは、隣接市である、その被災地の住民におもんぱかり、こう語った。
「大豆の発芽を悪くしたこの好天が、地震の被災地の救出、復旧作業を進展させたり、せき止め湖の水位の上昇を食い止めたりすることができたのならば、私たちが受けるこの試練も、少しは浮かばれるのかもしれない」
7月7日七夕。宮城県地方は今日も雨が降らない。
(記者:藤原 文隆)
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