「自殺で家族を亡くした人はそれを隠したいし、恥ずかしいって思う」
児湯郡の農業女性(49)は20年前、父親を自殺で亡くした。以来、抱いてきた気持ちは今も同じだ。
子どもへ残す財産だった杉山を親類に勝手に売却され、父の人生は狂った。日雇い労働で生計を立てたが、工具の震動が原因で、手が白くなってしびれる白ろう病を発症。「誰かにつけられている」などと口走るようになり、うつ病と診断されて約1年入院し、女性は見舞いに行った。
ある日、父親から電話があった。ありもしない財産の話で、女性は「父ちゃん、そんな財産はないよ」と答えた。1週間後、父は命を絶った。
「助けてやれなかった。私が父ちゃんを殺した」。女性は自分を責め続けた。
家族が自殺すると、配偶者や子どもが後を追って自殺する例は少なくなく、遺族の支援は自殺防止策としても不可欠だ。1人が自殺すると、その家族や友人、職場の同僚など5〜10人が深い悲しみや強いショックなど、何らかの影響を受けると言われている。年間自殺者数が10年以上300人を超える県では、毎年1500〜3000人が影響を受けていることになる。
昨年5月、借金を重ねて母親(当時54)が自殺した小林市の男性(35)は、布団に入ると、母親の死に顔が頭に浮かんで消えなかった。「なぜ、借金のことをもっと早く話してくれなかったのだろう」。眠れない日々が2か月ほど続いた。
こうした人々への支援は遅れている。関係者は「遺族が家族の自殺を隠すことで、支援を難しくしている」と口をそろえる。
小林保健所は昨年6月、毎月第4土曜に「遺族の集い」を始めた。これまで13回開いたが、うち11回は1人も参加せず、参加者はわずか2人。近所や知り合いの目が気になり、わざわざ福岡の「集い」に参加している人もいるという。
宮崎市のNPO法人「国際ビフレンダーズ 宮崎自殺防止センター」も宮崎市で偶数月の第2土曜日に遺族の会合を開いているが、参加者は毎回数人で、ほとんど同じ顔ぶれだという。
長崎県大村市のNPO法人「自死遺族支援ネットワークRe」の月1回の「集い」には、平均5人が参加する。山内賢司副代表は「集いに参加できるまでに要する時間は人によって違う。参加できなくても語り合える場があるというだけで、支えになるはず」と、長期的視点に立った活動が必要だと指摘する。
児湯郡の農業女性は昨年末、宮崎自殺防止センターの集いに参加した。「自分のせいで父が亡くなった」。女性は、今までだれにも話せなかった思いをはき出した。この時、父親を亡くした20歳代の男性がやはり、「自分を責めた」と聞いて救われた。
「家族の自殺は、残された遺族にとって、想像を絶するつらさなのです。でも、だれかに話を聞いてもらうことで、立ち直るきっかけになることもある」
女性は、大切な人や家族を自殺で失った人への理解と支援を社会に求めた。
(おわり。この連載は毛利雅史、坂田元司が担当しました)