2008年07月07日(月) 14時23分
【橋下改革の文化リストラ】国際児童文学館 貴重な収集…散逸も(産経新聞)
扉を開けると、児童書専門とは思えないほどの書棚がずらりと並んでいた。大阪・万博公園の大阪府立国際児童文学館。明治から現代までの計約70万冊にのぼる「子供の本」が収められている。
「こちらが、日本の児童文学のはじまり、と言われている『こがね丸』です」。主任専門員の土居安子さんが取り出したのは、明治24年に出版された本。きちんとカバーがされ、100年以上前の本とは思えない保存状態だ。また、明治から大正にかけて出版された「日本一ノ画噺(えばなし)」は国内でここだけ、全35冊がそろっている。
漫画や雑誌までそろっているところがユニーク。「昭和59年の開館当初は異論もあったようですが、漫画も独立したメディアとしてすべて収集してきました」と土居さん。「少年マガジン」「少年サンデー」なども創刊号からそろっており、永久保存されている。
だが、大阪府は財政再建プログラム案において、同館を来年度中に廃止、府立中央図書館に移転することを打ち出した。
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厳しい提案となった理由のひとつが「年間入館者数が約65万人の中央図書館で事業を実施する方が、多くの府民にサービスを提供できるから」。国際児童文学館の入館者数は19年度で約5万2千人。中央図書館の10分の1にも満たない。
「知名度が低かった、という思いはあります。一般のみなさんに知っていただけるようにもっと努力すればよかったのかも…」。常務理事の北田彰さんは唇をかむ。
同館にも言い分はある。「うちの場合は入館者1人は1人ではない。そのうしろに何十人、何百人といる」
専門資料館として、国内で出版されるあらゆる児童書を収集するほか「読書支援センター」としても機能してきた。4人の専門職員が、1年間に新しく出版される児童向け図書約4000〜5000冊すべてを読み、内容や傾向を分析。図書館の司書や学校の先生、読み聞かせのボランティアらを対象にした講座で情報提供している。どの本を選ぶべきかがよく分かり、年々人気は上昇、今年は3日間に300人が参加した。
年間に収集する資料は約1万5000点。実はこのうち約6割は出版社や個人から無料で寄贈されている。「書籍を大切に永久保存するという文学館だからこそ、唯一ここだけ、寄贈していただいているのですが、移転となればそれもなくなるでしょう」と北田さんは話す。だが、「公立図書館や学校図書館を下支えしている役割は見えにくいのかもしれない」とも。
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梅花女子大学の畠山兆子教授は「文学館は、図書館の理想の姿をめざしている。100冊を読んでそこから3冊を選び、その3冊から学校の先生や司書のみなさんが1冊、2冊を選んでいる」とその機能を弁護する。
畠山教授は長年、府民らでつくる「大阪国際児童文学館を育てる会」のメンバーとして、「民」の立場から同館の活動にかかわり、支えてきた。
改善してほしかった点がないわけではない。「利用者数だけで存在価値を判断すべきではないと思うけれども、増やせというならその方法はあったかもしれない。もっと学校教育とタイアップを図らなければならなかったかもしれない」
廃止の危機に、「ここの資料や機能は失なわれたら、そう簡単に取り戻すことはできないのだけど」と寂しそうに話した。(岸本佳子)
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日本屈指の児童書専門図書館の存続が問われるなど、大阪府の橋下徹知事が打ち出した財政改革が、文化事業を揺さぶっている。無駄遣い批判や財政難などによる文化事業の“リストラ”は一自治体だけの課題ではない。大阪の3事業を例に、行政と文化の関係について考える。
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