2008年07月02日(水) 18時42分
囲碁9路盤、コンピュータがプロから1勝した意義(オーマイニュース)
すこし古い話になるが、2008年3月22日(日本時間23日未明)、ヨーロッパ最大級の囲碁イベント「パリ囲碁大会」で、スーパーコンピュータとプロ棋士による9路盤エキシビション対局が行われ、コンピュータがプロ棋士から初の勝利を収めた。ご存知の方もいるだろう。
IBM のスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」がチェスの世界王者ガルリ・カスパロフを敗ったのが1997年。
あれから10年余りで、チェスよりも難しいとされる将棋のコンピュータソフトもトップアマのレベルに達し、プロを倒す日も近いといわれている。このため、日本将棋連盟は危機感を抱き、公の場でのプロ棋士とコンピュータソフトとの対局を制限するほどになった。
一方、盤がチェスや将棋よりも広く、手数の長い囲碁の世界ではどうか。
まだまだコンピュータソフトは弱く、がっかりさせられる。日本棋院が「アマ初段」と認定したソフトが市販されている。だが、対戦してみると、アマ初段ほどの手応えはないというのがもっぱらの評判である。
ところが、そんなコンピュータ囲碁の世界に、近年、画期的なプログラミング手法が現れた。コンピュータに手筋や定石を覚え込ませるのではなく、終局まで何万通りもランダムに石を並べて最善手を探す「モンテカルロ法」だ。
INRIA (フランス国立情報学自動制御研究所)のチームが開発した囲碁プログラム「MoGo」は、モンテカルロ法を基礎にしている。MoGo は、米国の無料インターネット碁会所 KGS の対戦ロボットとしてデビューするや、その9路盤での圧倒的な強さが評判になった。
9路盤は、通常の19路盤と比べておよそ4分の1の広さ。したがって囲碁入門用の盤ではあるものの、19路とは別の難しさもあって、テレビ番組などではプロ同士の非公式対局も行われる。
モンテカルロ法の特徴は、コンピュータを並列につなげることで簡単に棋力を上げられること。もし MoGo を並列型スーパーコンピュータで動かせばプロに勝てるかもしれない……。そんな夢の企画が早くも2008年パリ囲碁大会で実現した格好だ。
対戦したのは、ルーマニア出身のプロ棋士タラヌ・カタリン五段(日本棋院中部総本部所属)。両者持ち時間30分。コンピュータ囲碁に適しているとされる中国ルールでコミ(後手番に与えられるハンディキャップ)は7目半。計3局の熱戦の模様が KGS で実況された。
結果は MoGo の1勝2敗。勝ち越しこそ逃したが、コンピュータがプロ棋士を敗る歴史的な1勝を挙げた。
対局の前後に、ヨーロッパチャンピオンクラスのアマチュア2人とのテスト対局も行われ、どちらも白番のMoGo が勝利を収めた。
ちなみに、MoGo 対人間の対局は、いずれにかかわらず、5局とも白(後手番)が勝っている。MoGo が黒番(先手番)を苦手としているようにも見えるが、確かなことは分からない。
翌日行われた、カタリン5段との19路盤対局では MoGo は9子の置き碁にもかかわらず敗れた(置き石1子は10目分ぐらいのハンデに相当するといわれる)。MoGo も19路盤ではまだ弱い。プロ棋士に9子で勝てないのなら、アマ高段者のレベルに達しているかどうかも怪しい。
囲碁ファンにとっては興味深い対局だったが、惜しむらくは MoGoの歴史的勝利を見届けたネット観戦者が、数百人と少なかったこと。
事前の宣伝が十分でなかったことに加え、囲碁人口の多い東アジアではKGSの利用者が少なく、また深夜の対局となったことが災いしたのだろう。
(記者:荒井 尚志)
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