インターネットにつないで視聴する「ネットテレビ」の本格普及が始まり、対応するテレビも続々と発売されている。
24時間いつでも映画やドラマなどを視聴できる「ビデオ・オン・デマンド(VOD)」サービスを、パソコンや専用機器がなくても受けられるようになったためだ。関係者の多くは2008年を「ネットテレビ元年」と位置付けている。(佐々木鮎彦)
VODサービス…見たい時に映画、ドラマNHK、民放の地上波テレビや、ケーブルテレビ、CS(通信衛星)放送などのテレビ番組は、放送局が決めたスケジュールで放送されている。その時間に見られない場合、録画しておく必要がある。
これに対し、ネットテレビのVODサービスは、自宅にいながらビデオやDVDを借りる感覚だ。サービスの提供会社が、いわば巨大な録画機を持っており、そこに映画やドラマなどの番組をため込んでおく。視聴者は見たい時に見たい番組をそこから取り出して見る。録画し忘れたり、時間を間違えたりして見逃す不便さがない。
「アクトビラ」対応TV発売これまでVODサービスを受けるには、テレビのほかに、高度な情報処理能力を持つパソコンや専用の接続機器が必要だった。最近は半導体の性能が高まり、受信機能付きのテレビでネットから動画を受信することができるようになった。
サービスの提供会社で注目を集めているのが、大手テレビメーカーの松下電器産業やソニーが主体となったアクトビラだ。2007年9月から「アクトビラ」という名のサービスを始めている。
登録は無料で、VODサービスには無料と有料のものがある。映画、音楽、スポーツなど、年度内に6000タイトルに増やす計画だ。6月6日からは、CD・DVDレンタル大手「TSUTAYA」がアクトビラを通じてハリウッド映画など約200タイトルの有料配信を始めた。
大手電機メーカーは「アクトビラ」対応のテレビを続々と発売している。テレビのほかに専用機器が不要な点が特徴で、現在、VODサービスが利用できる対応機種は約50ある。
規格統一で普及に弾み規格の統一も、普及の弾みになりそうだ。NTTなどの通信会社とNHKや民放キー局、家電メーカーの計15社は、国内共通の規格を定めるために法人組織「IPTVフォーラム」を設けた。
NTTぷららの「ひかりTV」は現在、専用のレンタル機器をテレビにつなぐ必要があるが、規格統一後は、レンタル機器がなくてもサービスを受けられる可能性がある。統一規格は8月末をめどにできあがり、08年度中にもアクトビラ、ひかりTVの両サービスに対応するテレビが発売される見通しだ。
より普及が進むための最大のカギは、配信番組数の増加だ。テレビ番組の再放送のニーズが高いとされるが、著作権が入り組んでいる場合などがあり、十分な番組数とは言い難い。
さらに、リモコン操作で番組を購入できるようになるための手続きや、リモコン操作自体の煩わしさを低減することも課題だ。
アクトビラ沢根社長「年度内に利用者100万人目標」アクトビラの沢根浩一社長=写真=は読売新聞のインタビューに応じ、今年度内に利用者数を現在の2倍以上の100万人まで増やしたいとの考えを明らかにした。また、12月にNHK大河ドラマの配信を始める方針を示した。(聞き手 白櫨正一)
——TSUTAYAとの提携効果は。
「ハリウッド映画など魅力あるタイトルを数多く持つ会社と手を組めたことは成長のエンジンとなる」
——当面の事業展開は。
「アクトビラに出資する家電メーカー5社で高画質の対応テレビが7月に出そろう。NHKとも提携し、12月には大河ドラマや朝の連続ドラマなどの配信を始める。配信する動画は、今年度中に現在の3倍の6000本に増やしたい」
——利用者数の目標は。
「今年を『ネットテレビ元年』と位置づけている。5月末で40万人の利用者数を今年度中に100万人まで増やしたい」
——今後の課題は。
「現在の利用者は40歳代が中心なので、より若い層を取り込む必要がある。芸能人のブログ紹介や、ネットショッピングの充実など静止画サービスにも力を入れる」
ネットテレビ インターネット配信された高画質な映像や番組を視聴できるテレビ。インターネットを利用する電話を「IP電話」と呼ぶように、ネットテレビを「IPTV(テレビ)」とも言う。「ネットテレビ」と言う時はパソコンで受信する場合を含むことがある。