深夜、ネオンが光る街をあてもなく歩いた。公園のベンチに座り、何度も友人に電話した。つながらない時は、そのまま朝まで泣き続けた。
「車に飛び込んだら、楽だろうなって。死のうと考えるか、眠っているかの毎日だった」
西諸県地域に住む30歳代の女性は、かつて苦しんだうつ病体験を語る。
26歳で上京。専門学校で教師をしていたが、大学に通うため職場を移った。3か月後、前の職場の教え子が自殺し、ショックを受けた。「命の大切さを伝えてきたのに」と無力感に襲われた。職場環境が変わったストレスも重なり、うつ病と診断された。
特に病状が重かった2か月間、心配した友人2人が交代で自宅に泊まり込んでくれた。「支えがあったから、最後の行為を踏みとどまれた」と感謝する。
心の病と自殺は深い因果関係があるとされる。警察庁の統計では、昨年の自殺原因の1位はうつ病だった。世界保健機関(WHO)は、自殺者の8割以上が心の病を患っているとし、「専門医の適切な治療が、自殺予防の重要な第一歩」と強調する。
女性は東京で精神科に3年半通い、薬とカウンセリングでうつ病を完治させた。だが、「もし地元だったら、周りの目を気にして通院できなかったと思う」と打ち明ける。
県自殺対策センターの奥泰裕副所長は「宮崎では、心の病気に対する偏見が根強く、治療やカウンセリングの普及を阻んでいる」と指摘する。
小林市の救急病院「園田病院」は昨年、自殺を図った緊急患者を21人受け入れた。このうち14人が内科や精神科に通院歴があったが、その半数以上が周囲の目を気にして市外に通っていた。平保子・看護師長は「精神科にかかることへの周囲の偏見を恐れ、遠くの病院を選ぶ人が多いが、距離が負担になって治療が続かない」と語る。
自殺未遂で、小林市の精神科病院「内村病院」に運び込まれた50歳代の主婦はそれまで内科、外科、耳鼻科などを回った。体調不良の原因を別に求めたが、実際はうつ病だった。夫は精神科の受診を勧めたが従わず、症状が悪化。内科医が処方した薬をまとめて飲んで自殺を図った。
「自殺未遂するまで悪化して、やっと精神科を訪れる人も少なくない。初期に診察を受けてくれれば、病状の悪化は防げるのに……」。同病院のケースワーカー、大田久美子・地域医療連携室長は唇をかんだ。