読売新聞東京本社が事務局を務める活字文化推進会議と創価大学(八王子市丹木町)が主催して21日、同大で開かれた「活字文化公開講座」には、地域住民ら約300人が集まり、講師の山本一力さんの話に熱心に聞き入った。
山本さんは「生き方雑記帳」と題し、約1時間にわたり講演した。川端康成の「雪国」の冒頭に登場するトンネルの一節が、場面を簡潔に表現しているなどと説明し、「平易な言葉であればあるほど、人には伝わる。今の時代、わかりやすい言葉で話すことが、多くの場でうせていると思う」と問題を提起した。
今年で還暦を迎え、老眼鏡がぴったり合ってショックを受けた話を披露した上で、後期高齢者医療制度について、「後期高齢者というのは本当に無礼。人生の達人なのだから、マスターズとでも呼ぶべき」と提案した。
また、京都で立ち寄った湯屋に50年近く使い込まれてあめ色をした柳ごうりがあったことを紹介し、「何十年も使い込んで美しさが増していく。人間のマスターズでも本当にそうだと思う」と語った。
最後に、他人と接する際には、相手の考えや気持ちを思いやり、「自分が発した言葉を距離を置いて見るようにして、結末を想像することが大事」と呼び掛けた。
講演後に行われた同大経済学部の神立孝一教授との対談では、山本さんの作品が話題に。「なぜ江戸時代の下町が舞台になることが多いのか」という神立教授の質問には、近所の神社に江戸時代に奉納されたこま犬があることを紹介し、「その時代にいざなわれていくような気がするから」と説明。「親子関係を丹念に描くのはなぜか」との問いには、「大事な根っこを教えてくれるのは家庭の中だから」などと丁寧に答えていた。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news/20080622-OYT8T00040.htm