2008年06月18日(水) 20時11分
秋葉原事件の背景に「使い捨ての派遣労働」(オーマイニュース)
秋葉原通り魔殺傷事件では、現行犯逮捕(殺人未遂容疑)された派遣社員・加藤智大容疑者(25)が事件直前、勤務先の工場で「つなぎ(作業着)がない」とキレて騒ぎを起こし、それが直接の事件の引き金になったと見られている。事件を通じて、改めて、派遣労働者の過酷な現状がクローズアップされている。
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そんな中、「秋葉原事件と派遣労働を考える視点について」という懇談会(ガテン系連帯主催)が18日、衆議院第2議員会館で開かれた。ガテン系連帯事務局長・小谷野毅氏は「人を使い捨てる派遣労働が事件の要因のひとつにある」と訴えた。
「ガテン系連帯」は、2006年に発足した、派遣労働者の情報交換、支援、政策提起を目的にしたNPO。小谷野氏は、加藤容疑者の派遣元の関東自動車工業が、派遣会社の日研総業からの派遣社員を中途解約したことが「今回の事件の大きなファクター」と指摘した。
説明によると、関東自動車工業は3〜4年前から、派遣会社と3カ月更新の派遣契約を結び、派遣社員も派遣会社との間で雇用契約をしていた。ただ、07年3月から更新が1年となり、雇用契約も1年となった。08年3月からも1年更新の契約だ。
しかし、5月26日、関東自動車工業は突然、日研総業含む4社に対して、「6月末で解約」と通知を行った。中途解約の場合、厚労省の告示「派遣先が講ずべき措置に関する指針」で、派遣先の関連会社に就業を斡旋する、などとなっている。
「(200人の派遣労働者が所属する)4社に一斉に中途解約を行ったのは極めて異例。中途解約の場合は、いつ何時どうなるか不安。だから、派遣先の関連会社に就業を斡旋することになっている。しかし、きちんとやっていたのか疑問」
と小谷野氏は指摘する。
このころ、加藤容疑者は、
5月27日午前4時51分
私、6月でクビだそうです 次はどこにいきましょう いい街ありますか?
同53分
やはり、何もかもが私の敵です
同55分
生産が大幅に減るので派遣は必要ないようです
5時32分
帰る家がある皆さんがうらやましいです
と携帯サイトの掲示板に書き込んでいる。
小谷野氏は、こうした急な中途解約が行われた背景には、関東自動車工業の親会社・トヨタ自動車の経営戦略が影響している、という。トヨタは08年3月期で約2.3兆円の営業利益があったが、原油高・資源高・北米市場の冷え込みという「三重苦」によって、09年3月期には営業利益が29.5%ダウンする見込みとなったという。
そこで経費カットが求められ、「それが人件費の削減だったのではないか」と小谷野氏は推測する。トヨタ自動車の関連会社で中核の関東自動車工業にも波及し、五月雨式に派遣社員に対して人員のカットが言い渡され、何人残るか不明のまま、事件直前の6月5日、「つなぎがない」という騒ぎになっていく。
この頃の加藤容疑者の書き込みは、以下の通り。
6月5日午前4時52分
朝からイライラする
同52分
ああ、そういえば、クビ延期だって
同53分
別に俺が必要なんじゃなくて、新しい人がいないからとりあえず延期なんだって
同54分
派遣がやってた作業をやりたがる正社員なんているわけない
同54分
自分は無能です、って言ってるようなもんだし
午前6時4分
日に日に人が減ってる気がする
同5分
大規模なリストラだし当たり前か
同17分
作業場に行ったらツナギが無かった 辞めろってか わかったよ
同19分
鮮やかに帰宅 やってらんね
午前7時00分
ツナギ発見したってメールきた 隠してたんだろが
同5分
また俺が悪いのか
同7分
見事にはめられた
「人を自由自在に使いこなし、派遣労働者を使い捨てることで成り立っている。関東自動車工業だけが悪いのではなく、派遣労働の仕組みの問題だ」(小谷野氏)
一方、日野自動車で派遣労働をしていたフルキャストセントラルユニオン委員長の小谷誠氏は、
「07年8月、仲間が熱中症で倒れたが、上司に聞くと『そのような状況は見ていない。現認できない』といわれ、上司に抗議したことがあった」
と劣悪な環境にある派遣労働の経験を話す。
工場内の温度が40度を超えて、熱中症で15人が倒れても、給水タイムが1回あっただけ。さらに現場によって異なるといった熱中症対策は現実的でないこと。その結果として長期に休むと労災になるために、休むこともできないという現状。
「企業から見れば、派遣労働者はモノをつくる部品の一部。過酷な労働であっても作業者の体力は考慮されていない。生産が落ちれば、『代わりは他にいる』と切り捨てられる」(小谷氏)。
また、小谷氏がゴールデンウィーク前に東北地方を視察したときの調査では、リストラや倒産で次の仕事を探しても、30〜40代で時給700〜800円、手取りが13〜14万ほどで、子どもがいたり、住宅ローンがある場合はやっていけないという地方労働者の現状が浮かび上がったという。
そんなとき、派遣労働は魅力的に見えることを小谷氏は説明し、
「作業は毎日が単純労働の繰り返し。そんな中で孤立感が強い。いつ労働需要の調整弁として切り捨てられるかわからない。派遣労働者の不安をあおっているのは派遣元の企業」
と訴えた。
(記者:渋井 哲也)
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