2008年06月15日(日) 13時50分
「ある意味、バッシング万歳です」──秋葉原通り魔殺傷事件の「意味」と「背景」を赤木智弘氏に訊く(オーマイニュース)
秋葉原の通り魔殺傷事件から1週間。現行犯逮捕された加藤智大容疑者の背景に、派遣労働の厳しい現実やモテないことへのいら立ちなどが指摘されている。そこで、『若者を見殺しにする国』(双風舎)の著者で、フリーターや派遣社員などの不安定層が逆転する可能性のために、「希望は戦争」というチャッチフレーズで話題を呼んだフリーライターの赤木智弘氏に、この事件をどのように感じたか、話を聞いてみた。
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◆当日は実況板で書き込みしながら「厄介だな…」
──事件当時、何をしていたんですか。
家で原稿を書いていて、ニュース速報で事件を知り、2ちゃんねるの実況板を見ていました。秋葉原、派遣労働、オタク、モテないといったステレオタイプの符号がそろってきたので、スレッドの空気にあわせるように、「オレらキターっ!」などと書き込んでいました。でも心情的には「ちょっと厄介だな」と思っていました。
──この事件をどう感じましたか。
記号通りの事件で気持ち悪かった。「希望は戦争」というのは、「革命やテロ、闘争といった自らの力ではなく、戦争という外部の力で状況が変わる。自分の問題を自分たちでは解決できない」という意味です。例えば、自分が事件を起こせば、「犯人はおかしい」と思われるだけで意味はない。
ただ、事件自体は、見ている僕の立場からは、「外部の力」。事件によって、かつて宮崎事件と同じようにオタクバッシングがあるかもしれない。しかし、違うのはインターネットでは加藤容疑者の状況がある程度共有されていて、同情的な意見が多い。思っているだけで言わない状況よりはいいのではないか。
◆望んだのは安定的な人間関係?
──加藤容疑者はインターネットで犯行予告をしたり、心情を綴っていました。
自虐的な内容を書くのはある意味でネットの作法。しかし、それを内面化していき、実際の自分を増幅していったのだろう。今回は現状を緩和する方向にはならなかった。少なくとも、社会的地位が低い自分の状況に気がついていた。
派遣労働であれば、友達になっても、派遣先が変われば、友達じゃなくなる。あるいはメールだけ。仕事抜きの人間関係を望んでいたのではないか。
──加藤容疑者の高校は進学校。しかし、自分だけ専門学校に進みます。
独立志向が強いですね。親のところにいれば楽だったのに、手に職を付けたい、という思いがあったのだろう。その意味で、彼は昔ながらの労働者です。しかし、いい加減に扱われてしまうのが現状。大学を出て正社員にならないと生活が安定しない。社会そのもの必要とされていないことが分かってくる。そんな時、自尊心を保つためには宗教やファンタジーが必要。彼にとっての信仰は「彼女」だったのではないか。「彼女」は安定的な人間関係ですから。
◆他人を巻き込むことで社会への復讐
──しかし、現実には孤立していた。
彼は地方で住み込みの派遣労働です。そしてインターネットの中では「リア充」(リアルが充実している人)の情報のみを集めて行く。リア充であっても、たとえば、デートで割り勘をするような人でなく、男が女におごるデートをする人の情報しか入ってこない。インターネットは情報は多いが、彼自身が望んだ情報しか目に入ってこなかった。いろんなものをあきらめることが現実を受け入れることだったではないか。
ただ、女性の地位が確立してきて、キャリアウーマンでも専業主婦でもよくなってきた。しかし男性は稼ぐのが基本。男性は女性に比べれば受け入れられる幅が狭い。
──自殺願望があったようだが、実際には暴力性を外部に向けた。
その場の心情はわかりません。しかし、硫化水素の多発も似ているのではないか。他人を巻き込むとの情報が出てきても、止まることはない。自殺以外に、社会への復讐心もあるのではないか。僕が事件も起こさず、自殺もしないのは、自分の状況を良くしたいという前提があるから。
◆他人の力を頼っても恥じないこと
──加藤容疑者は自分たちとは違うという声があります。
論外です。こうした事件は、個人の資質に関係なく、必然的に起こります。同じような犯罪は出てくる。ただ、僕は彼よりも年上。社会に対する責任があります。こうした状況を作り出した責任の一端はあるでしょう。
だから、事件で亡くなった方たちの中で、年下の人はかわいそうです。しかし、年上の人や遺族は、こうした社会を作ってきて、放置してきた。だから自己責任だと思う。
──では何ができますか。
自分の力では何もすることできない。だから他人の力を頼ること。それを恥じないと思うことです。女性強者は男性弱者を養えと思う。強者は弱者に対して責任や義務があります。
規制という話も、出てきてもいいです。文句ばかり言っている人は無駄ですが、問題が大きくなればなるほど、僕たちに味方をしてくれる人も増える。その意味で、バッシング万歳です。派遣労働に同情的だったが、何もして来なかった人にも刺激になる。
(記者:渋井 哲也)
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