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2008年06月11日(水) 20時37分

【秋葉原17人殺傷の衝撃(下)】「器物破壊化殺人」生む疎外感 対策は「心開かせる社会」産経新聞

 東京・秋葉原の無差別殺傷事件はわずか5分間の犯行だった。犠牲者7人のうち4人は刃物で一刺しされたのが致命傷で、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)=殺人未遂の現行犯で逮捕=には犯行へのためらいがなかった。未遂を含めれば、全国の無差別殺人は昨年までの10年間で67件起きている。「心の闇」と一くくりにされがちだが、再発防止に有効な手立てはないのか−。
■反省の言葉なく…
 交差点で警察官に走り寄ると、加藤容疑者はぶつかるように右脇腹をナイフで突いた。「車ではねたと申告するのかと思ったら、平然とした様子で刺した」。目撃者の男性(35)は、能面のような容疑者の表情が目に焼きついている。
 加藤容疑者は「警察官を刺したことまでは覚えている」と供述。その後は、無我夢中で殺傷を続けたとみられる。
 仕事への不満、両親に対する恨み言、携帯サイトへの書き込み…。容疑者は淡々と取り調べに答えているが、犯行を反省する言葉はない。
■「殺人ドール」
 「器物破壊化殺人」。元検事で旧総理府青少年対策本部参事官も務めた田代則春弁護士の造語だ。何のためらいもなく、モノを壊すかのような感覚で殺害する行為を指す。「平成9年の神戸市須磨区の児童連続殺傷事件のころから、人を人とも思わぬ若者の殺人が目立ち始めた」
 器物破壊化殺人に共通するのは(1)ためらいがない(2)人を殺す動機がない(3)罪悪感がない(4)反省心がない(5)人を殺す意識がなく、モノを破壊する感覚しかない−ことだ。
 13年の大阪教育大付属池田小事件や今年3月の茨城県土浦市の8人殺傷事件もこれに該当。加藤容疑者も挫折感や「格差社会」への不満から無差別殺人へとエスカレートした疑いが強いが、秋葉原を犯行場所に選び、面識のない人を殺害した動機には直結しない。
 神戸の児童連続殺傷事件を起こした少年=当時(14)=は、事件前に猫や鳩をナイフで殺していた。「むしゃくしゃして人でも何でも破壊したくなる。犬や猫を殺したり、女性の場合は人形を壊し始めると危険な兆候だ」と田代氏。
 《スローイングナイフを通販してみる 殺人ドールですよ》
 犯行3日前の今月5日、サイトに書き込んだ加藤容疑者は「モノ扱い」される派遣労働者の立場に不満を募らせていた。殺す側を「人形」に例えて自身を重ね、同じ「モノ」を壊す感覚で人間を襲ったのか。
■ネットに依存
 《現実では誰にも相手にされませんもの ネットならかろうじて、奇跡的に話してくれる方がいます》。加藤容疑者はサイトで孤独感をあらわにした。《友達が欲しい》とSOSも発し、サイトへの依存ぶりを《私の唯一の居場所》と記した。
 《全員一斉送信でメールをくれる そのメンバーの中にまだ入っていることが、少しうれしかった》。犯行の約6時間前の書き込みだ。関西学院大の野田正彰教授(精神病理学)は「社会とのつながりを『うれしい』と書いた。この喜びを広げてやれれば、彼を救えたかもしれない」。
 田代氏の分析では、器物破壊化殺人に走るメカニズムはこうだ。最大の原因は社会や周囲からの疎外感。それは、学歴社会での「負け組」意識が孤独な性格と結びついて生じやすい。そこから被害妄想が膨らみ、社会に報復を企てる−。加藤容疑者にも符号しそうだ。
■政府を挙げた対策
 「ナイフ規制、派遣労働、インターネットの問題など、どういう対策が可能か検討したい」(町村信孝官房長官)。
 泉信也国家公安委員長は心の問題にも踏み込む考えを示した。「ハクチョウを撲殺し、花を傘で打ち払い、今回の事例。社会に傷んだ点があるのでは。社会全体の問題点を探す必要がある」。ただし、「警察だけでできる問題ではない」。
 「若者の疎外感や孤独感を解消してあげなければ無差別犯は確実に増える」と田代氏は警告する。孤独感にさいなまれる無差別犯の予備軍は、ある時期を境に無口になり、何事にも無関心になったりするという。家族や周囲の人がそうした兆候を察知し、「徹底した対話を試み、心の扉を開いてやるべきだ」と田代氏は強調する。
 企業ではメンタルヘルス対策が活発だ。が、臨床心理士などの専門家を置く会社は少なく、まして派遣社員は対象外にされている恐れもある。そうした対策も政府の課題だろう。
 そのうえで帝塚山学院大の小田晋教授(犯罪精神医学)は「教育」をポイントに挙げる。
 「教育の場で、地道に働き、我慢を重ねて初めて自己実現があることをきちんと教えるべきだ」

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