2008年06月08日(日) 20時00分
群衆が津波のように逃げまどった…秋葉原通り魔、犯行を再現(産経新聞)
「群集が急に、津波が来たかのように走り出した」。白昼の秋葉原で起きた通り魔事件。職業不詳の加藤智大容疑者(25)は大声で叫びながらトラックから降り、次々に通行人に襲いかかった。目の前で繰り広げられた惨劇。目撃者の証言から犯行の一部始終を再現した。
■写真で見る■秋葉原の惨劇
「ドーン」。加藤容疑者は8日午後0時35分ごろ、レンタカーのトラックで神田明神下交差点方面から、神田3丁目交差点に入ってきた。通行人を次々とはねた後でタクシーに衝突し、周囲には轟音(ごうおん)が響いた。
現場近くで買い物をしていた千葉県のフリーターの女性(17)は「トラックはそれほどスピードが出ていなかったが、ジグザグに走ってきて通行人をはね、そのたびに小さな爆発音のような音が響いた」と話す。
トラックがはねたのは5、6人とみられ、交差点には血を流した人が何人もうずくまっていた。現場近くの電器店の30歳代の男性店員は「あおむけに倒れたまま、上半身から血を流して両手を天に向かってあげて、『うー』とうめきながら助けを求めるようなしぐさをしていた中年男性もいた」。周辺は血の海となった。
停止したトラックの運転席から降りた加藤容疑者は、買い物客や観光客らでごった返す歩行者天国に向かった。
ベージュ色のジャケット姿の加藤容疑者。周辺の数人と何やら言葉を交わしたようにも見えたが、突然、はねられて路上に倒れ込んでいた1人の男性に馬乗りになり、体を持っていたサバイバルナイフで何度も刺しはじめた。男性はピクリとも動かなくなった。
倒れていた男性を保護しようとする制服警察官。加藤容疑者はこの警察官に向かって話しかけるように近づくと、さっと脇腹を刺した。平然とした様子だったという。右の脇腹を押さえ、路上に崩れ落ちる警察官。加藤容疑者は「ワー」と叫び声を上げながら、ナイフを持って走り出した。
前出の男性店員は「警察官には背後から抱きつくような感じで、映画か、ドラマの残酷なシーンをみたようだった。倒れていた中年男性の顔が忘れられない」と恐怖の表情を浮かべた。
そして加藤容疑者は、「飛行機のように手を広げて、蛇行しながら走って行った」(自営業の男性)という。
観光地として年々知名度を上がっている秋葉原。中心部の歩行者天国を散策していた買い物客らは、当初はやじ馬的に悠然と構えていた感もあったが、この時点でただならぬ事態に気づいた周辺にいた人々が、悲鳴とともに逃げ出した。
「右手に刃物を持ち、口を大きく開けて恐ろしい形相だった。『殺される』と思って何も考えられなくなり、駅へ向けて走って逃げた。何か叫んでいたようだが、よくわからない」(前出のフリーター女性)。つられる形で、何が起きたか把握していない人たちも一斉に走り出す。
近くの電器店従業員は「数百人が一斉に動いた。津波が来たかのように、急にみんなが走り出し、パニック状態になった」。近くの喫茶店の男性従業員(58)は「全速力で転びながら走って店の中に逃げ込んだ。鳥肌がたった」と振り返った。
加藤容疑者は警察官に追いかけられながら、交差点の真ん中当たりで、出合い頭に女性の腹を刺した。中央通り沿いを走りながら、さらに別の男性を刺して逃げる。手には黒っぽいナイフを持ち、振り回していた。
秋葉原にCDを買いに来ていた会社員の男性(35)は「あっという間に加藤容疑者が警察官らを刺したのを見て、一瞬呆然とした。女性は腹が真っ赤に染まっていた。男性はあおむけに倒れていた。はっと気付いて『やばい!』と思った。パニック状態の中、人並みに流されるように全速力で上野方面に走って逃げた」。
警察官から警棒で一撃されたとみられる加藤容疑者は、逃げるようにして、中央通り沿いにある電気店の間の路地へ。警察官が「待て、待て」と言いながら後を追った。
足立区の看護師、魚谷直輝さん(35)は、「救急隊到着し、『AEDが足りない!』という声がしたため、秋葉原駅にAEDを取りに行った。近くにいた人々は『自分も刺されるのでは』という恐怖感があり、ばらばらに走り去っていた」と語った。
路地では、「警棒を持った制服警察官と向かいあい、少し距離を置きながら、チャンバラのような感じでもみ合いながらにらみあっていた」(免税店の男性店主)。加藤容疑者は興奮状態で、ナイフを頭上に掲げて威嚇。額からは血を流し、服は返り血を浴びて真っ赤になっていたが、服装などに目立った特徴はなく、「普通の男性のようにしか見えなかった」(同)という。
男性店主によると、数分間の緊張したやり取りの後、警察官が「ナイフを捨てないと撃つ」とする言葉を告げ、拳銃をゆっくりと構えた。加藤容疑者は観念したのか、まもなくこの警察官と、私服姿の数人に組み伏せられ、現行犯逮捕された。
埼玉県朝霞市の男性(35)によると、「その脇にも男女2人が刺されて倒れていた」という。近所で働く男性会社員(44)は「ぞっとする。もう少し遅かったら自分も巻き込まれていたかも」と振り返った。
付近で通行人に地図を配っていた観光案内業の男性(27)は「4月末に自称アイドルが(路上で開脚して都迷惑防止条例違反で)逮捕された一件以降、パフォーマーも減りやっと平穏を取り戻してきていた。歩行者天国はなくなってほしくはないが、廃止されてしまうかもしれない」と悔しがった。
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