2008年06月04日(水) 16時07分
処女じゃないから婚姻無効!? フランスで大論争(オーマイニュース)
ここ数日、フランスで、あるカップルの婚姻を無効と認めた判決について議論が巻き起こっている。
問題となった事例は、ある男性が結婚後に妻が処女でなかったことを知り、婚姻を無効とするよう求め、今年の4月1日、リール市の大審裁判所(日本の地方裁判所にあたる)がこれを認めた。
この判例は、5月21日に司法関係の雑誌で紹介され、5月29日にフランスの日刊紙「リベラシオン」が取り上げた。それ以来、全国的な話題となり、各方面から反応が出された。
当事者のカップルは、2人ともイスラム教徒(ムスリム)だ。イスラム教の多くの教派は婚前交渉をタブーとしており、特に女性の処女性は重要視される。訴えを起こした男性は、「結婚前に女性が処女だと嘘をついていた」と主張。女性側も、処女性について偽っていたことを認めた。
リール大審裁判所は、「本質的な資質について過失があった場合、婚姻の無効を求めることができる」と定めた民法180条に基づき、男性の訴えを認めた。女性側の弁護士によると、2人は結婚の取り消しについて合意に達している。
しかし、この判決について主に2つの観点から批判が起こった。第1に、「政教分離の理念(フランス語で“ライシテ”と呼ばれる)に抵触する」という観点と、第2に、「男女平等に反する」という観点である。
批判の中には、これらが緊密に結び付けられていることもある。
第1のライシテに関しては、カップルがムスリムだったため、宗教的な価値観を受け入れた判決だという意見があがっている。「リール大審裁判所の決定はコーランの教えに服従するものだ」という極端な発言まである。
女性の権利や自由のために活動している人々は、第2の観点から、敏感に反応した。問題が多発する郊外都市を中心にフェミニズム運動を展開している「Ni Putes Ni Soumises(娼婦でもなく服従もしない)」というグループの代表、シレム・アブシ氏は、イスラム教の用語を使い、「この判決は女性に対するファトワーだ」と怒りを露わにしている。
しかし、「リベラシオン」紙をはじめ多くの報道機関が批判的な論調でこれを話題にした翌日(5月30日)、ラシダ・ダティ司法相は、「婚姻を取り消すということは、結婚を解消したいと願っている人を保護する手段でもある」として、この判決を擁護した。
政界でも反響が巻き起こった。特に野党である社会党から、「女性の権利や自由の擁護にそぐわない」として、矢継ぎ早に批判の声があがった。例えば、社会党の元大統領候補、セゴレーヌ・ロワイヤル氏は週刊紙「ジュルナル・ド・ディマンシュ」のインタビューで、「女性の権利と尊厳を後退させるものである」「判事は社会と習慣の進歩を考慮に入れることができたはず」と述べている。
また、野党からだけでなく、与党・国民運動連合(UMP)内や、政府関係者からも疑問を呈する声が少なくない。
都市政策担当閣外大臣のファデラ・アマラ氏は、「Ni Putes Ni Soumises」の会長を務めていたが、現会長と同様に「女性解放に対するファトワーだ」という見解を述べた。
さらに、内閣で貧困対策高等弁務官を務めるマルタン・イルシュ氏も、ラジオ局「ユーロップ1」でこの判決に対する怒りを表明している。
与党内からは、スポークスマンであるフレデリック・ルフェーブル氏が、「男性が同じ理由で嫌疑にかけられることはない」と男女平等の観点から批判し、判決の見直しを強く求める姿勢をみせた。
同党総裁であるパトリック・ドヴィジャンも「まったくもって受け入れがたく、われわれの共和国理念と相容れない」と述べている。
この議論はまたたく間に大きな広がりをみせ、当事者2人だけの問題では済まされなくなってきた。こうした前例は、今後の司法判決にも影響を及ぼす。一度はリール大審裁判所の判決を擁護したラシダ・ダティ司法相であるが、6月2日、検察官に控訴を要請した。また、野党の社会党は、今後、婚姻の無効判決が覆った場合、法律を改正するよう求めている。
ちなみに、フランスで結婚を取り消される例は少ない。2004年には、1632件の申請のうち833件が婚姻無効と認められている。ただし、その3分の2は偽装結婚であったためで、当事者ではなく検察官によって求められている。
民法180条に基づいて無効が認められた具体的な例では、カトリック信者が離婚歴を隠していたケースや、男性が性的不能であることがわかったケースなどがある。
(記者:柴田 真紀子)
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