【バンコク=山本大輔】ミャンマー(ビルマ)をサイクロンが直撃してから、2日で1カ月がたつ。国連によると、被害が深刻なイラワジ・デルタ地帯では、被災者の4割にしか援助物資が届いていない。だが軍事政権は、「復興段階」に入ったことを強調し、避難所を閉鎖して被災者を強制的に追い出し始めていることがわかった。
ミャンマー南西部のボガレイで30日、被災した子どもたちに服を手渡す支援団体のミャンマー人スタッフ
激甚被災地、エヤワディ管区のボガレイに5月30日、朝日新聞の現地通信員が入った。
公立学校に当局が設けた避難所で暮らすドウ・ラさん(55)は「すべての家族を失い、私だけが生き残った。1人で村に帰るのはつらすぎる」と声を落とした。
ここには200人以上が避難しており、子どもが多い。10日前から管理者が「復旧作業が進む今、動ける者から避難所を出て、自宅へ戻るように」と言い始めた。管理者によるとすでに500人が退去した。帰宅準備中の避難民は「壊滅した村は簡単に修復できないことは誰もが分かっているのに」と不安がった。
ウ・タン・マウンさん(70)は娘夫婦と2人の孫を失った。「遺体だけでも」と何日も捜し続けたが見つからなかった。「孫たちの命を奪った村へ戻っても悲しみに耐えきれない」と言う。
国連人道問題調整事務所(OCHA)は5月30日、バンコクで会見し、「被災者の強制移動は断じて許されない」と軍政を非難。被災地は援助を届けられる環境にはなく、支援物資を受け取れない被災者が増える可能性があると指摘した。ヤンゴンの外交筋は「軍政の意図が読めない。自分の村は自分で復興しろということかもしれない」と困惑ぎみに話した。
軍政が国際社会の人的支援受け入れを表明してから1週間がたち、国連からは45人の入国が認められた。デルタ地帯でも10人以上の国連関係者が支援活動を開始した。
しかし、米国筋などによると、国際赤十字の30人、米国際開発局(USAID)の9人などには、いまだに査証も出ていない。東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国・シンガポールのリー・シェンロン首相が31日、軍政の対応を「遺憾」と語るなど、国際社会のいら立ちが再び高まりつつある。
5月25日に開かれた支援国会議で、軍政は107億ドルの援助を求めたが、国営新聞によると、各国の表明総額はいまのところ1億5千万ドルにとどまっている。軍政が人的支援受け入れなどを実行することを援助実施の条件にしている国も多いためだ。
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