奈良県田原本町の医師宅放火殺人事件をめぐり、長男(18)=中等少年院送致=らの供述調書を引用した本が出版された問題で、秘密漏示罪に問われた鑑定医の崎浜盛三(もりみつ)被告(50)の公判が29日、奈良地裁(石川恭司裁判長)であった。検察、弁護側の双方が崎浜医師への取材経緯や犯行状況などを明らかにするため、本の著者でフリージャーナリストの草薙厚子氏の証人出廷を求めた。
さらに双方は、告訴人でもある少年の父親にも出廷を求め、弁護側は、出版経緯を知る講談社の関係者に対しても順次申請する方針を示した。
この日の公判では、証人申請に先立ち、弁護側の冒頭陳述があった。弁護側は改めて無罪と公訴棄却を訴えるとともに、崎浜医師は本に引用された調書について、出版を知った段階では自らが情報源だとは認識していなかったと主張した。
さらに、検察側が前回公判の冒頭陳述で、崎浜医師が週刊誌などの原稿を監修した謝礼として10万円余を受け取ったという指摘に対し、「監修料として相場であり、正当」とし、調書を閲覧させたことに対する謝礼の趣旨は一切含まれていないと反論した。
閉廷後、少年の付添人で告訴代理人でもある濱田剛史弁護士は弁護側の主張に対し、「プライバシーを暴露された少年や父親らの怒りや悔しさを理解できないからこそ、このような荒唐無稽(こうとうむけい)な主張ができるのだろう」とコメント。高野嘉雄弁護団長は草薙氏の証人申請について、「取材の方法も含め、事件における責任を法廷の場で明確にしたい」と述べた。
草薙氏は20日の記者会見で「(崎浜医師の)無罪判決を勝ち取るために協力する」と話し、出廷する意思を示している。