04年3月に行われた都立板橋高校の卒業式で、君が代斉唱時に着席するよう保護者らに呼びかけ、式の進行を妨害したとして威力業務妨害罪に問われた同校元教諭・藤田勝久被告(67)の控訴審で、東京高裁(須田賢裁判長)は29日、元教諭の控訴を棄却する判決を言い渡した。
須田裁判長は、藤田元教諭が校長らの制止を無視して呼びかけ、式の開始を2分遅らせたことが威力業務妨害に当たると認め、罰金20万円(求刑懲役8カ月)を命じた一審・東京地裁判決を支持した。弁護側は判決を不服として上告した。
控訴審で弁護側は、当時は君が代の斉唱時に起立することなどを定めた都の通達をめぐって教育現場などで議論されていた時期で、06年9月には通達を違憲とする東京地裁判決もあったと指摘。そのような背景から、反対する立場の呼びかけを「威力」に当たると積極的に評価すべきではない▽呼びかけは憲法が保障する表現の自由に基づくもので、妨害した結果もなく刑事罰に問うべきではない——などと主張していた。
これに対し、この日の判決は、「君が代の伴奏命令が思想・良心の自由の侵害にはあたらない」とした最高裁判例を挙げ、「議論があったことが、直ちに『威力』にならないと判断する事情にはならない」と指摘。元教諭が校長らの制止に怒号で抗議したことなどを「威力」に当たると認めた一審判決の判断に誤りはないとした。
表現の自由については、「憲法が絶対無制限に保障したのではなく、公共の福祉に必要な制限に服することを認めている」としたうえで、「明らかにその場の状況にそぐわない大声で呼びかけて喧噪(けんそう)状態に陥れ、校長が法律上持つ権利である、式の円滑な進行を現に阻害した」と批判。「たとえ思想を外部に発表する手段であっても、他人の権利を不当に害することは許されない」と述べた。
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