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2008年05月28日(水) 00時00分

言葉、視点・・・もっと説明を 専門の壁<上>読売新聞

被告人と正対 緊張感
模擬裁判で再現された犯行の模様を真剣に見る裁判員ら(奥)(26日、地裁で)

 来年5月の裁判員制度スタートまであと1年。地裁で26、27日、報道各社の担当記者が裁判員役となる模擬裁判が開かれ、私も参加した。法律の素人である市民が人を裁く場に参加する意味や課題について、2回にわたって考えてみたい。(須山靖子)

 「同人から現金を強取し……上記暴行により……同人に加療約1週間を要する前胸部打撲傷の傷害を……」。26日午前10時、他の裁判員役5人とともに入廷すると、検察官役の司法修習生が起訴状を読み上げ始めた。普段は取材で何気なく聞いているが、予備知識のない一般の裁判員がいきなりこんな言葉を聞かされても、訳が分からないだろう。

 裁判員の席は、裁判官の両脇に3席ずつ。裁判官と同じ目線で法廷を見下ろすと、大勢の視線がこちらに向いているのに気付く。わずか3メートルほどの距離で、被告人と正面から向き合う。普段、取材で傍聴席から眺めている法廷とはまるで違う緊張感だ。

 検察側の主張では男が路上で男性の顔を殴ってけがをさせ、1万円を奪った「強盗致傷事件」だが、弁護側の主張は「傷害と恐喝」。ただ、両者の違いが分かりにくい。ここをきちんと理解しないと、後の被告人質問などでどんな点に着目したらいいのか分からないのに、弁護人は「相手が抵抗できなくなるほど強い暴行、脅迫があったかどうか」などと書面を読んだだけで、疑問を残したまま先へ進む。裁判員から弁護側に直接質問する機会はなく、詳しい説明があったのは翌27日、裁判員が判決内容を話し合う「評議」に入ってからだった。

 以前の市民参加の模擬裁判では、法廷で眠ってしまう裁判員が相次いだが、こうした説明不足による分かりにくさが一因なら改善の余地がありそうだ。

 「何でも質問していいんですよ」。休憩時、別室で裁判官から優しく助言されて臨んだ証人尋問、被告人質問。検察官や他の裁判員らの質問の時はメモをとるのに必死だったが、本番ではDVDで録画したやり取りを後で見直せるようになるという。それならもっと落ち着いて被告人らの表情を見られるだろう。

 ある裁判官は「我々プロが見過ごしがちな点に疑問を投げかけ、私たちの『有罪慣れ』に風穴を空けてほしい」と裁判員制度に期待する。判決の99%以上が有罪の日本の裁判では「裁判官は捜査側が作成した調書などを習慣的にすらすら読んでしまい、結果的に捜査側の描いたストーリーに引きずられている可能性がある」というのだ。

 それには「プロ」の側にもまだ努力が必要だと思う。

 27日の評議では、罪の有無や量刑には無関係と思われる犯行時の被告人のひと言を巡る議論に2時間が費やされた。裁判官からは「検察、弁護側双方から判断を求められているので事実認定しなければならない」と説明があったが、「無用な議論では」との思いは最後まで消えなかった。

 また逆に、強盗致傷の判断基準のように、裁判取材をある程度経験した私でも「もっと丁寧に説明して」と感じた場面があった。一般の裁判員のとまどいはなおさらだろう。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ehime/feature/matuyama1211897613080_02/news/20080527-OYT8T00733.htm