アスベスト(石綿)による健康被害をめぐり、大手建材メーカー「ニチアス」関連工場の周辺住民らを対象にした環境省の「健康リスク調査」で、受診者358人のうち石綿を扱う職業とは無縁と思われる37人に、石綿被害特有の病変「胸膜プラーク」がみつかったことがわかった。周辺ではこれまで、従業員やその家族を中心に被害が確認されていたが、日常生活の中での石綿の吸引がほぼ裏付けられ、労働災害とされてきた石綿被害の「公害」の側面がさらに強まった。
JR王寺駅の西に立地するニチアス王寺工場。中央奥に竜田工業がある=奈良県王寺町、本社ヘリから、寺脇毅撮影調査は、工場周辺住民への被害状況を調べるため、環境省の委託で昨年度は奈良県のほか、横浜市鶴見区と岐阜県羽島市などで実施。うち奈良県内ではニチアス王寺工場(王寺町)と同社子会社の「竜田工業」(斑鳩町)の周辺で石綿排出量が法規制された89年以前に暮らした人らを中心に希望者が受診し、胸部エックス線やCT検査を受けた。
その結果、98人(男65人、女33人)に胸膜プラークの所見が出た。うち61人は本人や家族に石綿関連の職歴や、工場への立ち入りの経験があった。一方、受診者のうち171人は石綿を吸い込んだ具体的経緯が特定できず、その中でも女性11人を含む37人に胸膜プラークがあった。
これとは別に2人がじん肺の一種「石綿肺」や肺がんと診断された。
胸膜プラークは、石綿を吸い込むことで肺を覆う胸膜の一部が白板状に厚くなった状態。一般の人に比べ、中皮腫など石綿疾病になる危険性が高いとされる。兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場の周辺で実施された同様の調査では、107人中32人に胸膜プラークが見つかり、このうち石綿を吸引した経緯が不明な住民が11人いた。(相江智也、室矢英樹)