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2008年05月25日(日) 01時02分

香港の家賃、急騰 五つ星ホテルも契約更新断られる朝日新聞

 香港でオフィスや住居の賃料が急騰している。外資の進出ラッシュに加え、過熱の背景には、通貨が米ドルと連動する「ペッグ制」の存在がある。香港は好景気なのに、米国の金融緩和で金利が実質マイナスとなり、だぶついた資金が不動産に流入しているからだ。(香港=奥寺淳)

  

五つ星ホテル「ザ・リッツ・カールトン」が立ち退いたビル(中央)は、オフィスビルに改築している間、欧米企業の広告塔に衣替えしている=奥寺写す

 香港の金融街・中環(セントラル)に事務所を構える日本のある金融機関に今春、家賃値上げの通知が届いた。3年前、3.3平方メートル当たり約2万8千円で契約した。新たに示された家賃は同7万2千円。2.6倍だった。

 「値下げ交渉はしたが、1円も安くならなかった。相場は3倍でも当たり前だから、ましな方でしょう」。交渉にあたった駐在員は、あきらめた表情で話す。

 五つ星の高級ホテル、ザ・リッツ・カールトンは1月、大家に契約更新を断られ、九竜半島側で再開業する予定の10年まで、香港での拠点を失った。地元の不動産業者は「ホテルに1棟貸しするより、オフィスの方が高い家賃が取れるからだ」と語る。

 ほかにも、米投資銀行大手モルガン・スタンレーや全日空などの外資企業が、より家賃の安い九竜側に移ることを決めている。不動産仲介大手、中原地産の黄良昇・研究部主幹は「この調子だと賃料は今年中に、香港返還の97年を超えそうだ」と予想する。

 「返還バブル」に沸いた97年の反動で、その直後から香港の不動産価格や株価は急落。さらに同年のアジア通貨危機、03年の新型肺炎SARS騒動もあり、経済は低空飛行を続けてきた。

 ところが、04年以降、年率10%を超える中国の高度成長の恩恵を受け、香港の景気は急回復してきた。オフィスの賃料は、07年までの3年間で平均7割上昇。中環の中心部では03年から4倍近くにもなった。住宅の家賃は、昨年末から今年2月末までに6.4%も値上がりしている。

 相場を押し上げているのが外資企業の存在だ。香港政府の統計では、10年前に約2500社だった外資企業は、07年に1.5倍の3890社に増加。法人税が安く、株式の譲渡益や配当が非課税なので、特に銀行や投資銀行などは「中国投資への玄関口」である香港に進出し、事業拡張がいまも続いている。

 そこに金利の低下が加わり、不動産市場への資金流入に拍車をかける。香港ドルは米ドルと連動するペッグ制を採用しており、金利も米国と連動する。米低所得者向け(サブプライム)ローン問題で米国が昨年から利下げを繰り返し、香港の金利も急低下。今や普通預金の利子は年0.01%程度だ。

 一方で、最近の物価上昇率は3%を超え、金利は実質マイナス状況にある。住宅ローン金利も下がり、個人も住宅投資をしやすくなった。低調な株式市場からは資金が流出し、不動産市場になだれ込んでいる。

 みずほ総研の稲垣博史・香港駐在シニアエコノミストは「経済は中国と連動しているのに、通貨が米国に連動するペッグ制の矛盾が出ている。いずれ香港ドルは切り上げざるを得ないだろう」と話す。

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