パイロットの目を地球温暖化防止に役立てようと、日本航空の機長たちが環境活動に取り組んでいる。氷が激減した北極近海の写真などを使って子どもたちを前に出前講座をしたり、シベリアやインドネシアの森林火災発生を関係機関に通報したり。「空から見た地球」の危機を伝え続けている。
2月初め、ニューヨーク発成田行きの日航機に乗務した小林宏之機長(61)は、アラスカとロシアの間にあるベーリング海を見下ろして驚いた。この時期は一面凍っているはずなのに、氷は狭くて薄く、あちこちで青い海面がむき出しになっていた。
乗務員歴38年で、日航のすべての海外路線を飛んだ小林さんも「真冬にこれほど氷が解けているのは記憶にない」。日航は水平飛行中など運航や計器に影響しない限りで、写真撮影を認めている。小林さんはデジタルカメラを取り出し、写真を撮った。
00年ごろから、温暖化の影響とみられる異様な光景を目にすることが急に増えたという。中央アジアのアラル海は砂漠化でほぼ干上がり、中国・黄河の流量も目立って減った。
こうした危機感を背景に、日航は07年6月、現役機長が小学校などで環境問題を語る出前講座「そらいく」を始めた。今年度はほぼ月2回のペースで開く。
講師役の中心は山田光男機長(58)だ。パイロットは人気がある職業だけに、いつも質問攻めにあう。小学5年生から「航空機はリサイクルできないの?」と聞かれ、答えに詰まったことも。「今までにない視点でした。講義に出かけることで、私も学ばせてもらえる」と山田さん。
海外の森林地帯で火災を発見した時に位置や広がり具合を関係機関に通報する活動にも取り組む。
03年にシベリアで始め、07年からはアラスカ、インドネシアにも対象を広げた。これらの地域では夏季に森林火災が多発し、大量の二酸化炭素(CO2)が出る一因になっているが、広大さゆえに発見が難しい。07年は172件を通報し、初期消火に一役買った。
日航の環境活動の事務局を務める吉田建夫・地球環境部マネジャー(57)は「地球を丸ごと見られるパイロットの視点を生かし、温暖化防止に少しでも貢献したい」と話す。(加戸靖史)