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2008年05月24日(土) 21時31分

こうのとりのゆりかご設置1年 「必要ない社会が理想」朝日新聞

 赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を運営する慈恵病院(熊本市島崎6丁目)が23日、市役所で記者会見した。蓮田太二理事長とともに運用を担う田尻由貴子看護部長は「命が助かり、生きる権利が保障されてよかった」とこの1年を振り返った。

「命について皆さんが考えてくれた」と「こうのとりのゆりかご」設置の意義を語る慈恵病院の田尻由貴子看護部長(左)。奥は蓮田太二理事長=熊本市役所

 預けられた子17人全員と顔を合わせた田尻さんは「かわいいのになんで(預けるのか)とも思った」と語った。「安易な預け入れはないか」との問いには「一律には考えられない。その人にとっては厳しい状況でせっぱ詰まっていたと思う」と答えた。

 助産師として最初に勤めた慈恵病院で蓮田理事長と出会った。旧菊水町(現和水町)の町立病院に勤めていた時、請われて古巣に復帰。蓮田理事長とドイツの赤ちゃんポストを視察し、二人三脚で「ゆりかご」に携わる。

 「預けると親は罪悪感を持ってしまう」と考え、預け入れないですむように、妊娠、出産などの相談態勢を充実させた。自身と看護師2人の計3人が24時間態勢で年500件以上の相談を受けた。

 相手には「よく相談して下さいましたね」と必ず声をかける。「やっとの思いで電話をかけてくる相手に、『なぜ』と思っても説教や反論はいけない」と心がける。夜も枕元に携帯電話を置く。深夜の相談電話で起こされることもある。

 この1年、「子どもを預けたい」という相談は約80件あったが、相談の結果、9件については親が思い直し「自分で育てる」と決意。特別養子縁組に至ったケースは25件あった。「相談態勢が充実し、『ゆりかご』の要らない社会になるのが理想」という。

 記者会見後、宇土市で講演した。病院に来たのは、ホームレス同然の状態だった女性や、家族にも妊娠を打ち明けられない人、妊娠した中学生もいたと紹介し「小さな命が守られる社会をめざす」と力を込めた。(岡田将平)

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