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2008年05月23日(金) 14時57分

GDPと景況感がこれほどズレる理由 夏前から「景気減速」本格化かダイヤモンド・オンライン

 「あり得ない数字だ」とある中堅精密機械メーカーの関係者は苦笑する。

 円高や原燃料高により、今期十数億円の営業減益を予想する同社を取り巻く環境は、まさに「逆風]だ。にもかかわらず、「テレビや新聞で報道される経済指標が好調そのものなのはおかしい」(関係者)というのだ。
 
 その「あり得ない数字」とは、5月中旬に内閣府が発表した2008年1-3月期の実質GDP(国内総生産)速報値である。これが大方の予想に反して、意外なほど好調だった。1-3月期の実質GDP成長率は前期比+0.8%となり、年率換算では、07年1-3月期以来最高となる+3.3%を達成したのだ。

 しかし、冒頭の関係者が驚くように、GDPと一般の企業や個人が肌で感じる「景況感」とのあいだには、実は大きなギャップがある。

 「決算期が迫っているため、少しでも多く売り上げを計上しないと、銀行から次の融資を受けられない。建材価格の高騰でコストは2割もアップしているが、500万〜1000万円も値下げしないと家が売れない。まさにジリ貧、バナナの叩き売り状態だ」(中堅住宅メーカー)

 「乾いた雑巾を絞るようにコストカットを行ない、納入価格を下げてきたが、業績が悪化した得意先の自動車メーカーから、先日ついに契約解除を持ちかけられた。もう人員整理しかない」(中堅自動車部品メーカー)

景気がよどころではなく、巷にはこんな悲痛な声が溢れている。GDPと一般の景況感にここまでギャップが生じる原因は、「GDP計算の特殊性」である。企業や個人を苦しめている円高や物価高の影響が、正確に織り込まれていないのだ。

 GDPの計算において、本来、円高の悪影響は貿易額に織り込まれるべきだが、モノやサービスが日本から輸出される時点の円ベースで計算されるため、最終的な為替差損は考慮されない。特に、巷で最も重視されている実質GDPは、物価を織り込んだ「名目GDP」から物価変動の影響を除いているため、原燃料高の悪影響も反映されていない。

 円高による企業収益の悪化は設備投資減少を、物価上昇は消費減退を招くが、一般的には波及までにタイムラグもある。このように、GDPを見ただけでは「足元の景気」を正確に判断するのは難しい。

 とはいえ、企業業績や家計が本格的に悪化すれば、今後の経済成長に無視できない影響を与えるのは確かだ。GDPの構成要素で見ると、この1-3月期に日本の経済成長を牽引したのは、新興国向けが増えた「財貨・サービス輸出」、閏年で計算対象期間が増えて底上げされた「民間最終消費支出」、改正建築基準法による住宅着工件数減少の反動需要が現れた「民間住宅投資」となっている。

 しかし、今後は景気減速中の米国向け輸出減少、さらなる物価上昇による消費減退、買い控えによる住宅需要の頭打ちなどが起きる可能性が高い。「4-6月期以降の実質GDPは連続でマイナス成長に陥り、通年の成長率が1%台を割り込む」と予想する専門家さえいる。われわれが本当に危機感を抱くのは、景況感とGDPとのギャップが縮まる「これから」だ。

(ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)


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